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2007/11/13

コーリャ 愛のプラハ

監督:ヤン・スヴェラーク
出演:ズデニェク・スヴェラーク/アンドレイ・ハリモン/リブシェ・シャフリャーンコヴァ/オンドジェイ・ヴェトヒー/ステラ・ザヴォルコヴァ/イレーナ・リヴァノヴァ/ラディスラフ・スモルジャク

30点満点中19点=監5/話4/出4/芸3/技3

【いい加減な音楽家と、言葉の通じない少年】
 1988年、共産党による圧政が続くチェコスロバキアの首都プラハ。チェロ奏者のロウカは、友人に金を借り、副業で墓碑の装飾を請け負い、汲々としながらも呑気に日々を送っていた。50を過ぎてもなお女性を取っ替え引っ換え、独身を貫いていたロウカだが、報酬目当てにロシア人女性と偽装結婚、ところが彼女は5歳の息子コーリャを置いて西ドイツへ亡命してしまう。ロウカは言葉の通じない連れ子と生活することになったのだが……。
(1996年 チェコ/イギリス/フランス )

★ラストの展開に関するネタバレを含みます★

【彼にとっての革命】
 まず抜群の構成力に惚れ惚れしてしまう。
 スカートをめくるのに使われるボウ、列車の窓から眺めるクルマ、ロウカのただひとつの荷物であるカバン……といった諸々が、後のシーンでも小粋に生かされる。あるいは次のシーンへと移る際の最後のカットに見られるユーモアとセンス。小さな話なのに、すごく立体的に組み立てられている印象を残すのだ。

 バスタブから引き上げられるコーリャが足をぴゅっと振って雫を落とす姿をきっちりと捉えたり、テープレコーダーに並べられるシャンパンの栓、ウインドウにうつる人の姿、電柱の上の鳥など、「このシーンでは何をピックアップするべきか」といった意識がすみずみまで行き届いており、画面の構成も見事だ。手間ひまをかけて撮ったことがよくわかり、作品に格調を生み出している(コーリャが高熱を出したときの描写にも感銘を受けた。いや実際、体温が40度を超えるとあんなふうに見えるんだよね)。

 音楽も、やや軽めの感じはあるが出来事の楽しさを後押しするし、赤みがかった室内の光の加減もいい。

 その豊かな画面内で動く人々も十分に魅力的で、どこかとぼけていて、微笑を誘う。監督の父で脚本も担当しているロウカ役ズデニェク・スヴェラークの、しかめっ面と焦りと温かさ。極上にピュアな存在感を示すコーリャ役アンドレイ・ハリモン君のナチュラルで多彩な表情。ふたりの姿がやわらかな中欧の空気の中にスっと収まる。

 単に“ほのぼの”している映画なら山ほどあるだろうが、ここまでキッチリと要素要素を積み上げて“ほのぼの”を醸し出すというのは、なかなかの演出手腕だろう。その点で、また描かれている社会、社会と個人との関わりという共通性においても『グッバイ!レーニン』に通じるものがある。

 やはり『グッバイ!レーニン』がそうだったように、本作もただの“ほのぼの”映画ではない。長きの抑圧を経てようやくの自由を手にしたチェコならではの、社会的なテーマも込められている。

 チェコと同様・同時期に民主化を果たしたハンガリーの人に「自由化による弊害や痛みは確かにあった。でも、話したいことを何も話せなかった当時よりはるかに素晴らしい時代だ」と聞いたことがある。
 血をともなわないビロード革命を実現したチェコでも、それは同じことだったろうが、そこで経験した痛みとは、たとえば難民の流入や社会格差の表出などにとどまらないということが、この映画で明らかにされる。
 つまり「過去の否定」である。
 ロウカは社会主義というシステムの不備ゆえに望まぬ結婚を強いられ、望まぬ子どもを育てるハメにもなった。調子のいい男だったロウカが、初めてコーリャという存在に対して真剣になり、なんとか心を通い合わせることができたと思った途端に引き離される。政治の勝手によって生きかたを翻弄され、「はい、そこまでで結構」とばかりに苦労してやって来たことをゼロにされたのだ。

 革命とは、なるほど確かにいったんゼロにしてリスタートをすることである。この時代この場所に暮らす多くの人々にとって過去は、否定すべきものであったことも確かだろう。でも中には、捨てたくない“精一杯”だってあったはずだ。
 もちろん本作は、その部分だけを取り上げて革命を否定するような映画ではない。むしろ、そうした痛みを必要としない社会を作り出すべきという祈り、経験した痛みをフィルムとしてとどめおこうとしたものだ。この経験はロウカにとっての革命となった。そんな個人レベルでの価値観や心境の変化を時代性とともに描いたもの、といえるだろう。

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