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2007/12/03

ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女

監督:アンドリュー・アダムソン
出演:ウィリアム・モーズリー/アナ・ポップルウェル/スキャンダー・ケインズ/ジョージー・ヘンリー/ティルダ・スウィントン/ジェームズ・マカヴォイ/ジム・ブロードベント/ジェームズ・コスモ/エリザベス・ホーソーン/パトリック・ケイク
声の出演:木村良平/宇山玲加/畠中祐/高橋由希/大地真央/関智一/中村正/大木民夫/津嘉山正種(リーアム・ニーソン)/麦人/池田秀一/遠藤憲一

30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3

【4人の子どもが、予言の王となる】
 戦火を避けるためロンドンを離れることになったペベンシー家の4きょうだい、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシー。疎開先であるカーク教授のお屋敷で、彼らは不思議な衣装ダンスを見つける。それは、ナルニア国へと通じる扉。そこで出会った半神半獣(フォーン)のタムナスさんによれば、ナルニアでは白い魔女のせいで冬が100年も続き、アダムの息子とイブの娘、すなわち4人の人間が新たな王となりナルニアを救うというのだ。
(2005年 アメリカ)

【確かに薄いかも知れんが、非難すべきものじゃない】
 原作は未読。映画化となった本作を世間は薄っぺらとか子ども向けとか展開が読めるとかいっているようだけれど、もともと児童書、それにファンタジーの場当たり的展開というか、「意味の通ってなさ加減」ってこんなもんでしょ。
 そりゃあ映画としての重厚感やワクワク感では負けているかも知れないけれど、『LOTR』だって『ハリポタ』だって、高尚でもなければ奥深くもなかったわけだし。
 むしろ「キッチリわかりやすく作りました」というディズニー・クォリティによる安心感が充満していて、それでいてクドクド説明しすぎる頭の悪さもあんまりなくて、観やすい作品として仕上がっていると評価したい。コケたときのことを考えたのか、続編を作んなくてもOKなまとめにしてあるから「おいっ、次回作も観なきゃ話がわかんないじゃんかよ」ということにもなっていないし。

 たとえば末娘ルーシーとタムナスさんとの出会いのシーンの愛らしさは、ウィットあるセリフのおかげもあって上質。ここで感じられる“善良さ”を全編に渡って崩さず映画の軸としたことが、キッチリ感をもたらしている。
 そして、ルーシーをはじめとする演技陣も上々。正直お姉ちゃんにはもうちょっと美形を持ってきて欲しかったとも思うが、4きょうだいの「実在とファンタジーの中間」的な雰囲気は上々だし、みんな動いたほうがスチール写真よりも魅力的と思える子どもたち。ティルダ・スウィントンの非人間的な存在感も『コンスタンティン』よりは落ちるものの健在だ。
 今回は吹替え版で観たのだが、リーアム・ニーソンにちゃんと津嘉山正種を持ってきて、4きょうだいをアテた子たちも役者に負けないくらいの技量だし、違和感がないどころか吹替えのほうが楽しいかもと感じさせる。それもまたディズニー・クォリティ。特に遠藤憲一はね、『銀色の髪のアギト』に輪をかけた渋さが強烈だ。

 画面作りも適確。当たり前のことだけれど、ハっと驚いたら驚いた人の一人称視点で驚きのモトを捉える、笑顔を見せるべきところでちゃんと笑顔を見せるなど、カッチリとカットを構成しているのがいい。
 監督は『シュレック』の人で、なるほど戦闘シーンなどで時おりそれっぽい絵作りも見られることに納得するわけだが、それよりも“奇をてらわず、真っ当に撮る”ことを徹底してあるおかげで観やすさにつながっていると感じた。

 もちろん文句をつけたくなるところも多々あるわけで。
 まず2時間25分は、子ども向けにしては長すぎ。描くべきことを適確に描いているのはいいんだけれど、1シーンずつもう少しスリムにしてもよかったんじゃないか。人物が背景から浮いているのが目立つなど、CGがややちゃっちい感じもある。

 そして最大のポイントは、そうはいってもやっぱり薄さ、ということになるだろう。『LOTR』は物量投入&暑苦しい絵作り&もったいぶった展開で映画全体の密度を増加させた。『ハリポタ』はひとりひとりのキャラクターを大切にするとともに日常をしっかり盛り込むことで物語世界を立体的にしてみせた。またどちらにも、単なる映像化にとどまらず記憶に残るものにしようという制作サイドの思い入れが感じられた。
 それらに比べて本作には、ストレートすぎ、あっけなさすぎという感は、確かにある。たとえば長兄のピーター。お前、あんまり役に立ってないぞ。せっかく「弟妹たちの面倒を見なきゃ。でも僕はそんなに立派じゃない」という性格設定があり、そこにアスランを絡めて“父性”をキーワードとした広がりも予感させるのに、ふわーっとやり過ごしてしまう。次男エドマンドの扱いにしたって「きょうだいやキツネを助けるため、やむなく魔女の側についた」というエクスキューズをちゃんと描いてあれば、クライマックスの説得力も違ってきたろうに。
 つまり“押さえておくべきこと”を押さえてはあるんだけれど、それが「出来事」だけにとどまり、「心情」にまでは突っ込んでいけていないわけだ。

 とはいえ、下手に風呂敷を広げすぎず中途半端に掘り下げもせず、キッチリとお子様向け冒険ファンタジーとして仕上げ切っていて、まずまず楽しく観られる作品ではある。

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