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2007/12/08

トロイ

監督:ウォルフガング・ペーターゼン
出演:ブラッド・ピット/エリック・バナ/オーランド・ブルーム/ダイアン・クルーガー/ローズ・バーン/ピーター・オトゥール/ブライアン・コックス/ブレンダン・グリーソン/ショーン・ビーン/ギャレット・ヘドランド/サフロン・バロウズ/ネイサン・ジョーンズ/ジェイコブ・スミス/ジュリー・クリスティ

30点満点中17点=監3/話4/出3/芸4/技3

【漢(おとこ)たちの闘い! トロイは墜ちるのか?】
 勇者アキレスの働きもあり、ギリシア全土を手中に収めつつあるミュケナイの王アガメムノン。その弟メネラウスは難攻不落の都市国家トロイと同盟を結ぶが、妻ヘレンがトロイの第二王子パリスと恋に落ち、トロイへ渡ってしまう。怒ったメネラウスはアガメムノンを恃んでトロイを攻撃、アキレス率いる精鋭たちとトロイの第一王子ヘクトルの軍とが激しくぶつかる。戦争を収拾すべくパリスはメネラウスとの一騎打ちを申し出るのだが……。
(2004年 アメリカ)

【この映画、実は主人公は王様なのだ】
「いい評判をあまり聞かない作品だけれど、意外と“観られる”映画になっていたんじゃないかな」
「原案はホメロスの『イリアッド』ですが、ギリシア神話の神々が登場しないなど、かなり大胆な翻案がなされているようですね」
「それが奏功した。ファンタジーではなく漢(おとこ)たちの物語として仕上げ、しかも詰め込むことをぎゅっと絞ったおかけで、わかりやすく、破綻の目立たない物語になっていたと思う」

「脚本は『25時』『ステイ』のデヴィッド・ベニオフです」
「どうやら出来不出来の激しい人みたいだな。でも今回は広げた風呂敷をまずまず上手に畳んで及第点。全体的に文学的・舞台劇的なセリフで統一していたのも、雰囲気があって良かったし」

「でも、キャラクターの造形には深みがありませんよね」
「うん。たとえばアキレスが孤高の勇者であることの背景、アキレスといとこのパトロクロスとの関係、ヘクトルの立ち位置……。このあたりはもう少し描くべきだったと思う。オデュッセウスだって、物語の中でもっと重い役割を背負っていてよかったはず」
「特にブラピのアキレスは、葛藤の描写が十分じゃないと感じました」
「深く掘り下げなくってもスターだからいいじゃん、だってブラピだもん、というキャラクターだよな。ふと木村拓哉を思い出しちゃった」
「その割に、あまりカッコよくありません。まぁこの手の英雄って、どうしたってマンガやアニメのデフォルメされたキャラクターほどにはカッコよく描けないから仕方ないんですけれど」
「ただ、ブリセイスと絡めてそこそこ血の通った存在に仕上げてあったとは思う。それにアキレスの描写を増やして肩入れしすぎると、後で述べるけれど『この映画でやろうとしたこと』が薄まっちゃうんだ」

「もうひとりの主役ともいえるヘクトル、こっちもキャラ的には薄かったんじゃありませんか」
「こいつこそマンガやアニメなら、頭脳明晰かつ腕も立って家族思い、デキる男としてカッコよく描かれるだろうね。それが、まるでない。ていうか、エリック・バナが大根なんじゃねーか。ホントはもっと彼の描写に時間を割きたかったけれど、中途半端な芝居しかできないから出番もカット、とか」
「確かに、われわれ日本人にすらわかる華のなさ」
「女性はキレイどころばっかだったし、他の男優陣もちゃんと自分の役割はまっとうしていたから、なおさら惜しまれるキャスティングだね」

「映画としての仕上がりはどうですか?」
「ヨコ長のスクリーンを生かした迫力ある進軍とか、美術・CGの仕事の妥当性、戦闘のスピード感など見どころはあるんだけれど、なんかフツー」
ドキっとするような場面って、まったくありませんでしたね」
「急にズームを使ったりして、前時代の西部劇か香港のフィルム・ノワールかっていう感じは、別の意味でドキっとしたけれどね。まぁ『ドキっ』を目指している作品じゃないから、これ」

「じゃあ、どこを目指していると?」
「この戦争で得をしたのってさ、アガメムノンだけなんだよ。勇者だろうが王子だろうが、神のご託宣だと神官がのたまおうが、結局は戦争の行方って支配者の都合によってコロコロと転がるんだな。逆にいえば、周囲の出来事をみんな自分の都合のいい方向へ上手く利用するヤツが支配者になるってことなんだ」
「主役はアガメムノンですか。だからアキレスやヘクトルをカッコいい主人公にしちゃうのではなく、中途半端にジタバタさせた。この人たちは勇者や指導者を気取っているけれど、実は支配者に踊らされているだけなんだよという皮肉をこめたかった、と」
「そう。それをわかっているのはオデュッセウスだけ。だから『せめて名前だけでも残れば』なんて思っちゃうんだ。ま、そうした漢たちの悲哀をもっともっとクローズアップできていれば、評価も高まっただろうね」

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