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2007/12/25

Little DJ 小さな恋の物語

監督:永田琴
出演:神木隆之介/福田麻由子/西田尚美/石黒賢/佐藤重幸/村川絵梨/松重豊/光石研/賀来賢人/森康子/小林克也/広末涼子/原田芳雄

30点満点中17点=監3/話2/出5/芸3/技4

【病床の少年が、伝えたかったその想い】
 野球の試合中に倒れてしまった中1の高野太郎。検査の結果、「血液のバランスがおかしくなっているから」と入院させられることになる。退屈を持て余した太郎に大先生が施した治療は“DJ”。太郎は昼休みの院内放送でディスクジョッキーを務めることになったのだ。音楽と太郎の声に癒される患者たち。いっぽう太郎は、交通事故で入院中の1つ年上の少女・海乃たまきにほのかな恋心を抱くようになるが、その想いを伝えられないでいた。
(2007年 日本)

★ネタバレを含みます★

【雑な部分と丁寧な部分が同居する】
 わがまま放題に作られた結果、ああなっちゃった『遠くの空に消えた』とは対照的に、こちらは「きっちり作った結果、こうなっちゃった」というイメージの作品。

 この際、白血病とか、病室を抜け出すとか、そしたら急な雨に降られただとか、“いまさら”な要素と展開には目をつぶろう。問題は、それらをどう上手く見せるか、ということ。
 とりあえず、ありきたりな題材を手堅くまとめて“感動ストーリー”にしてはあるのだが、そこで本作は「なんでもかんでもセリフで示す」という大きな踏み間違いを犯してしまっている。
 こんなことがありました、彼はこういう人です、僕はこう思いました、誰それは死んじゃった……と、まぁ喋る喋る。

 大先生の部屋で放送&オーディオ機器を見つけて顔を輝かせる太郎とか、看護婦さんに彼氏がいないと知って燃える患者たちとか、「観て微笑ましくなる」シーンもいくつかあるのだけれど、全体的に語りすぎの説明しすぎ。シナリオに書かれている以外のこと、映画の中に出てきている以外のことに想像力をふくらませる余地が、ほとんどない。
 ハッキリいえば「小学生とおばちゃんにもわかりやすく」という方向性でまとめられた、あまり頭のよろしくないシナリオ。現に、隣の親子連れがいちばん楽しんでいたもんな。
 まぁ、もともと小学生とおばちゃん向けの映画といわれればそうなんだけれど、もう少し観客を信頼して「ああ、そういうことか」「きっと、こういうことなんだろうな」と感じさせる作りにしてもよかったんじゃないか。

 また、中盤では「想いを伝えることの大切さ」が、ラストでは「生放送によって同じ時間を共有できるのがラジオの本質」というメッセージが説かれるのだが、ならばそのテーマをもっと大切に描くべきだった。
 たとえば音楽にあわせて踊る売店のおばさん、というカットはすごく好きなんだけれど、その前に「仏頂面のおばさん」というカットがあるだけで、病院内に太郎がもたらした“あたたかな風”がもっとクッキリと浮かび上がっただろう。院内放送が生なのか録音なのかによって異なる患者たちのリアクションや空気、という描写も不足している。
 若先生と大先生についても、もっと掘り下げられたはず。患者が難病だからといって、あんなに表情を変える医者(若先生)はいないだろう。それを大先生はどう見ているのか、どんな想いを抱いているのか、院内放送によってその関係がどう変化していったか、を盛り込んでもよかった。
 ほかにも、太郎の父と母、クラッチとコロなど、「想いを伝えるべき相手関係」がいっぱい散りばめられているのに、結城さん親子以外には活用されていないのももったいない。舞台を函館にした意味・必然性や季節感も十分ではない。
 そもそも太郎が告白したときの行動って、感動的に思えて、自分がDJであることを否定していないか?

 要するに、お話として薄く、雑なのだ。

 ただ、薄いなりに見どころはある。
 人物をほとんど同じサイズで捉えているため必要以上に小っちゃい世界になっているのだが、それは、太郎やたまきに“寄り添う”効果を生み、感情移入を誘う。
 割と思い切ったフレーミング(天井近くにあるスピーカーと太郎の上半身とか)、画面内への人物の収めかたもスマートで、流れるようにカメラは動く。総じて、退屈な絵になっていないのが、いい。太郎とたまきの初遭遇のシーンの、たたみかけるようなリズムも良質。間延びしたカットや編集がなく、丁寧に作られているな、と思う。

 そして最大のポイントは、キャスティングと、その扱い。
 福田麻由子がこんなに“いい女”だったとは。もうちょっとキャラクター設定を工夫すれば、天性のツンデレ素養が芽吹いてさらに魅力的になったとも思うのだが、いやもうこれで十分に愛らしい。わざとらしく、彼女に陽の光を当ててハイキーに撮っていたりしてさ。
 特にね、函館山のシーン。太郎の横でうずくまっているたまきの顔を陰にしてあるんですよ。それが次のカットではボーンとまぶしい笑顔のドアップでしょ。あれはもう男目線で見た女の子の扱いですわ。

 もちろん、神木君もマル。ここのところ役柄と芝居と神木君自身の「大人になりつつある自分を持て余している」感じが微妙にズレていたりもしたんだけれど、本作では、太郎という少年と、神木君の中にある少年を上手くシンクロさせつつ、無邪気さ、懸命さ、思いやり、苦しさなどをちゃんと表現して、ドギマギも相変わらずサマになっているし、病床での儚げなたたずまいも上々、安心して観ていられた。

 ほかでは、さすがに原田芳雄が出てくると落ち着くし(神木君と鉄道談義はしたんだろうか)、西田尚美はもちろん、松重豊も光石研も村川絵梨も、なにげに上手い。石黒賢のマイナス分を相殺して余りあるくらい、みんなそれぞれの役柄を、肩に力を入れすぎずにまっとうしていた。
 主演ふたりと周囲の頑張りで17点をキープしたようなものだ。

 で、ここまで書いて気づいたんだが、“作り”についての感想・言及ばかりだな。つまり、そういうこと。内容とか、この映画で得た自分なりの想いについて語りたくなるようなデキになっていないのだ。
 それでも精一杯の読解を試みてみよう。

 人は、ちっぽけな力しか持っていないけれど、何かをすることができる。特に心から楽しんでいる人に触れると、周囲の心も開いていくものなのだ。
 ただ、忘れちゃいけないことがある。誰かのためになんて考えないで、まずは自分自身のために、自分自身の想いを伝えるために行動を起こそう。そうすることが、彼や彼女を理解し、自分を理解してもらうことにもつながるのだから……。

 ああ、俺も想いを伝えなきゃ。自然とそう思わせる映画にして欲しかったものである。

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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2007/12/28 10:49

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