アメリカン・ビューティー
監督:サム・メンデス
出演:ケヴィン・スペイシー/アネット・ベニング/ゾーラ・バーチ/ウェス・ベントリー/ミーナ・スヴァーリ/クリス・クーパー/ピーター・ギャラガー/アリソン・ジャネイ/スコット・バクラ/サム・ロバーズ/バディ・デル・シャーマン
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4
【アメリカ、ある平凡な家族】
郊外の一軒家に、不動産ブローカーの妻キャロリン、高校生の娘ジェーンと暮らす記者レスター・バーナム。だが夫婦仲は冷え切り娘からも疎まれ、会社からはリストラされそうな危機もあって、死んだような日々を過ごしていた。ジェーンの友人で美貌のアンジェラや、隣に引っ越してきた青年リッキーと出会って、レスターの中に何かが芽生える。ようやく命を取り戻し、会社を辞め、新しい人生を送り始めた彼だったが……。
(1999年 アメリカ)
【これは、僕らの宿命】
オスカー・ウィナーにしては珍しく、格調や重厚さよりもヒネリと風刺を旨とする本作。心象を映像化したり、人物を戯画的に描いたり、チアガールの中にひとりだけ目立つようブロンドを置いたり、変化球的かつ記号的な映画に思える。
でも、というか、それゆえに、というか、キッチリと作り手の意図が各カットからあふれ出す。
撮影は『暴力脱獄』や『明日に向って撃て!』で、スタイリッシュながらも怒りや焦りや破滅の“ギラギラ”をフィルムに塗りたくったコンラッド・L・ホール。今回は、人物たちを突き放すような青白い色合いで、陰影を強調しながら幾何学的あるいは様式的な構成の画面を作り上げていく。
なるほどすなわち、現代アメリカの暗部を切り取ってミニチュアを作り、そこになぁんも救いの手を差し伸べないことを目的とした映画なのだな。それが、意図。
にしても、病んでるよな。ドラッグ、家庭崩壊、ゲイ、ピンクフロイド。
やけっぱちになったり、火傷に憧れたり、従順という安息に逃げ込もうとしたり、自分を大きく見せようとしたり。
自己実現のための無茶な努力と自分を偽るためのウソ、それらを隠し通そうとしても結局は漏らし落としてしまう無防備な人々。
ま、考えてみれば、ここまで極端ではないにしても文明国ならどこだって直面しているのが“現代の闇”。安穏に満たされる人もいれば成功を渇望する人もいる。平凡からの脱却を目指す人もいれば生まれながらにして道を外れる素養を持つ人もいる。
価値観が多様化した現代だからこそ許されたり許されるような気がしたりする道が目の前にいろいろと広がっていて、それぞれの道行は重なり、たがいに邪魔しあって、闇が生まれていく。
もう少しマシな人生もあったよな、いやこれからだって軌道修正できるよな、と思いつつも、闇の中でどうしようもできなくてあがき続けるのが、この時代を生きる僕たちの宿命なんである。
そして僕らは、自分自身が闇から抜け出すのに精一杯で、責任なんか背負い込みたくなくて、だから誰にも救いの手なんか差し伸べてやんないし、誰も救いの手を差し伸べてはくれないのである。
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