キンキーブーツ
監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:ジョエル・エドガートン/キウェテル・イジョフォー/サラ=ジェーン・ポッツ/ジェミマ・ルーパー/ニック・フロスト/ユアン・フーパー/ロバート・パフ
30点満点中20点=監4/話5/出4/芸4/技3
【倒産目前の靴工場、起死回生策はセクシー・ブーツ】
田舎町のノーサンプトン。ニックとの結婚を間近に控えるチャーリーは、突然の父の死で靴工場を引き継ぐことになる。ところが取引先から契約を打ち切られて倒産のピンチに。そんなときに出会ったのがドラッグ・クイーンのローラ。ショーパブで歌とダンスを披露する彼女(彼)らには「男の体重を支えられるヒールの靴」が必要だと思いついたチャーリーは、ローラや従業員ローレンの助けを借りて新製品の開発に乗り出すのだったが……。
(2005年 アメリカ/イギリス)
【シナリオと語り口の上手さ】
序盤の、父の死、突然の社長就任、あふれる在庫といった流れの作りかたがまず良質。セリフによる説明抜きでチャーリーの性格や立ち位置、「この町がプライス工場で成り立っている」ことを示したりして、なかなかに映画的だ。出来事3のうち1だけを描いて残りの2をわからせる。そんなお話のリズムが実に心地よい。タクシー運転手の「行き先は?」という問いに対して抜群の答えを用意してあるなど、セリフのセンスも上質だ。
終盤、大団円へ向けてやや駆け足になった雰囲気もあるが、全体に、よくできたシナリオ(脚本はジェフ・ディーンと『カレンダー・ガールズ』のティム・ファース)だろう。
演出もシナリオの良さをきっちりと生かす仕上がり。目の動きだけで表現されるYES、社長室に飾られた代々の写真、慌てて逃げて置き忘れられる靴など“見ればわかる”というカット/シーン作りが貫かれている。前にあったシーン/シチュエーションを後から引っ張り出してきて物語を立体的にする手際もいい。
余計なことはせず、間延びさせたりドタバタやギャグに走ったりせず、テキパキとした編集でスマートにシーンをつないでいく。靴の箱を2つくっつけてブーツ用に仕立ててあるのをサラリと見せたりとか、いかにもそれっぽい工場内・社長室やステージ舞台裏の創出など、空間の作りかたも気が利いている。
とにかく語り口の上手い映画なのだ。
そんなカッチリとした作りの中で、とびっきりの魅力を放つのがキウェテル・イジョフォー演じるローラ。この人、見るたびに雰囲気が違う。今回はハリとコクのある歌声や、キリっとした立ち姿と艶っぽい仕草の両立もしてみせて、本当に芸達者なんだなぁと感じる。
決してあきらめないこと。いまの自分自身を見つめて、他の誰でもない、自分自身のやりかたで出来事や人と対面すること。そのためには自分だけでなく周りも大切にしなければならないこと……。
そんな“自分らしい生きかた”について考えさせる力も持つが、むしろ気楽に観るのが吉。
予定調和のエンディングはもちろん、その作りの上手さに自然と心が解放される良作である。
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