カオス
監督:トニー・ジグリオ
出演:ジェイソン・ステイサム/ライアン・フィリップ/ウェズリー・スナイプス/ジャスティン・ワデル/ヘンリー・ツェーニー/ニコラス・リー/ジョン・カッシーニ/タイ・オルソン/ジェシカ・スティーン
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸3/技4
【なぜ彼らは何も奪わず姿をくらましたのか?】
誤射事件の責任を取らされ、相棒は免職、自身も停職となった刑事コナーズだったが、銀行に立て篭もった強盗犯が彼を交渉役に指名したことから現場に復帰する。ところが犯人は銀行を爆破し、現金を奪わずに逃走。FBIは中東の王子が貸金庫に預けたものが狙いと推測したが、コナーズ、新しい相棒のシェーン、テディ、ビンセントらは独自に捜査を進める。その結果、コナーズを停職に追い込んだ同僚のカーロが捜査線上に浮かび上がる。
(2006年 カナダ/イギリス/アメリカ)
【丁寧かつスピーディに興味を引っ張る】
正直、話の先(というか、事件のウラ)が“読める”部分もある。ある人物が死亡した時点で鑑賞をストップし、じっくり3~4人で推理すればほぼ真相に行き当たるだろうな、というくらいのカラクリ(まぁそれはアンフェアな見かただけれど)。
だいたい「無関係に思えることでもつながっている」と作中で断言しているわけだし。
ただし。
この手の真相究明型ストーリーでは「最後に意外な事実がずらずらぁ~」とか「名探偵、みなを集めて『さて』といい」というパターンに持って行きたくなるもの。だが、そういう愚は犯さず、新事実を1つずつ提示し、それによってミス・ディレクションを(登場人物にも観客にも)誘い、その先にまた新事実を用意して……と、観る者に考えさせ、楽しませる配慮がなされている。
しかも、謎解きの合間にはカーチェイスや銃撃や爆発がタイミングよく挟まれて物語に起伏を与え、真相へ至る伏線もしっかりと撒かれる。コナーズとSWATとの間にある確執はどうしても入れ込むべきで、それがなかったためにシナリオのポイントを3点止まりにしたが、なかなか練られていて、丁寧だし、密度感もあるストーリーだ。
見せかたも丁寧かつスピーディ。メモ、ドル札、カーロのサインなど、たとえ一瞬でも必要ならしっかりとそのためにカットを割き、それを短いカットの中に埋め込むことでリズムを生成する。クライマックスでは、それまでに撒いた伏線をフラッシュバックさせる。昼間の街中から薄暗い病室まで、さまざまな明るさの舞台を作中に配置する。そうした見た目のリズム感も上質だ。
そうして「観客に推理はさせるんだけれど、じっくり考えるヒマはギリギリ与えないで、ハイ次の展開」という絶妙のテンポを作って興味を引っ張ることに成功し、最後にはすべて納得という収まりのよさもある。
配役も、上手にストーリーと観客の興味を引っ張る。ジェイソン・ステイサムはやっぱりこういう毒づきタフガイがハマっているし、その割に“頭がキレる”という設定でも無理のない、貴重な存在。ライアン・フィリップも実直(だけじゃないけど)に捜査と推理を続ける若い刑事を好演。ウェズリー・スナイプスは冷酷な犯罪者をスリリングに演じ、以前の直情型アウトローから上手に脱皮している。テディ役ジャスティン・ワデル、なにげにイロっぽいぞ。
そんなわけで、まずまずよくできた映画。前述の通り、SWATがコナーズの命令を無視して突入することに妥当性が与えられていれば、あと、事件とは関係のないところで印象に残るサムシングが盛り込まれていれば、もう1ランク上にいけただろうが、現状でも十分に“楽しめる”作品だ。
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