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2008/03/15

バンテージ・ポイント

監督:ピート・トラヴィス
出演:デニス・クエイド/マシュー・フォックス/フォレスト・ウィテカー/エドゥアルド・ノリエガ/アイェレット・ゾラー/エドガー・ラミレス/サイード・タグマウイ/ゾーイ・サルダナ/リチャード・T・ジョーンズ/アリシア・ザフィン/ブルース・マッギル/シガニー・ウィーヴァー/ウィリアム・ハート

30点満点中18点=監4/話3/出3/芸4/技4

【銃声が響き、倒れる大統領。その事件の裏には……!?】
 テロ対策の国際会議が開かれようとしているスペイン、サラマンカのマヨール広場。挨拶のため演壇に立った合衆国大統領アシュトンの胸を銃弾が貫き、次いで広場の内外で爆発が発生する。シークレット・サービスのトーマス・バーンズ、スペイン人警官のエンリケ、ハンディカムをまわしていた旅行客ハワード、実行犯のひとりハビエルら、その場に居合わせた人物たちの視点で事件を繰り返し描き、意外な真実を浮かび上がらせる多視点映画。
(2008年 アメリカ)

【上質なエンターテインメントであることは確か】
 思っていた以上のものではなかったな、というのが正直な感想。思っていたのとはちょっと違った、というべきか。
 いや、エンターテインメント作品としてはかなり上質だとは思うのだが。

 まずTVクルーによって事件が捉えられ、時間を遡ってバーンズ中心、また時間を戻してエンリケ、また戻ってハワード……と、正午からの数十分をそれぞれの立場から繰り返し描く、という構成。
 もはや珍しくない“作り”だが、パッチワークのように1つ1つの出来事が結びついて真相が明らかになっていく流れは、やっぱり面白い。

 特に効いているのが、視点によって微妙にタッチが異なること。バーンズのパートでは不安が、エンリケのパートでは苛立つ情熱が、ハワードのパートでは寂しさが画面の底辺に流れていて、各人の背景にはそれほど言及されないのに、それぞれが抱える心の闇をしっかりと感じさせる。

 各人物を演じた役者たちも存在感たっぷり。特に、おっさん3人(デニス・クエイドとフォレスト・ウィテカーとウィリアム・ハート)が汗と血を滴らせながら頑張っているのが印象に残るが、いっぽうで「この独特の構成を持つ映画のパーツの1つ」として、必要以上に出しゃばることなく役柄をまっとうしていたようにも思える(まぁデニス・クエイドが一応の主役なので多少は目立つのだが)。
 エドガー・ラミレスは『ドミノ』のとき以上にカッコイイし、まずシガニー・ウィーヴァーという大物によるプロフェッショナリズムあふれる演技からストーリーを始めて「これ、格のある映画ですから」と宣言したのもサスペンス増大に寄与している。

 スピード感抜群、かつ観客を事件の当事者にも傍観者にも仕立て上げるカット・ワークで、撮影と編集は上々。「なんてことだ!」と絶句するバーンズの表情を絶妙のサイズと長さで捉えて、観客にも「えっ、なによなによ」と感じさせ、そして急展開。この技と間(ま)がいい。
 スリリングなBGMと音響、爆発の迫力、スタントにカーチェイス、なによりマヨール広場を再現してしまった美術など、各セクションの仕事のクォリティは相当なものだ。
 実際ここまで込み入った計画が実行に移されるのかどうか、ああいう対応策とかこういう人物とかがホントに存在しうるのか、そのあたりのリアリティについては微妙だが、90分という短さもあり、1つの歴史的大事件の裏側を一気に見せ切ってくれる。その裏側がわれわれにどう伝えられるのかもアイロニカルに示してくれる。
 実に完成度の高いエンターテインメント作品といえるだろう。

 が、そのエンターテインメント性の高さが、逆にアダとなった。
 特に終盤の30分は謎解きを離れて、もう完全にアクション映画。まぁそれはそれで面白いし、荒唐無稽なバカアクションには堕していないし、ちゃんと落ち着くところに落ち着くのだが、てっきり「意外な事実を連続して突きつけて、『あっ』とか『そういうことか!』と驚かせてくれる作品」と思っていた身としては、ちょっと肩透かしを食った気分。
 そういう意味でのお話的・構成的面白さは『11:14』とか『運命じゃない人』のほうが間違いなく上だろう。

 それでも、やっぱり上質なエンターテインメントであることは確か。一瞬たりとも退屈することのない映画ではある。

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