ある子供
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
出演:ジェレミー・レニエ/デボラ・フランソワ/ジェレミー・スガール/オリヴィエ・グルメ
30点満点中16点=監4/話3/出3/芸3/技3
【生きかたを知らない彼がたどる道】
恋人ソニアが子どもを生んだ。だがブリュノは、ソニアの部屋を無断で他人に貸したり、年少者を手下にして盗んだものを売りさばいたり、道行く人に小銭をせびったりと、刹那的な毎日を過ごす。ソニアから定職に就くよう諭されるブリュノだったが、盗品ブローカーから「養子を欲しがっている人がいる」という話を聞き、その言葉にのって赤ん坊のジミーを売却、大金を手にする。卒倒するソニア、駆けつけた警官、そしてブリュノは……。
(2005年 ベルギー/フランス)
★ややネタバレを含みます★
【計算ずくで作られた真実】
作りは『息子のまなざし』と同様。1つのカメラ、1つのレンズでひたすらブリュノを追う。撮影者とブリュノの距離は常に50cm~数mほどに保たれ、遠景はほとんどなく、画角はかなり狭い。加えて、あり得ないほどアンダーな露出で動きが隠される。
そうして「ぜんぶは見せない(投げ捨てられる充電器、クルマの往来、チンピラによるリンチ)」ことによって作られる緊迫感。長回しとBGMの排除もヒリヒリを助長する。
こんなヤツに関わりあいたくない、見えないなら見えないままでいい、と感じさせる展開と画面構成だ。
また今回は、危険というか、「死」というものを間近に感じさせるシーンが数多く用意されている。走るクルマの間を突っ切るブリュノとソニア、ヘルメットなしでのバイク走行、乳母車の真上で吸われるタバコ、じゃれあいながらのドライブ……。
どうしたって、赤ん坊ジミーの身が心配になる。こんなヤツらに親を名乗る資格はないと思ってしまう。
だが、本当に心配すべきなのはブリュノやソニアのほうであるという真実が最後に示される。『ある子供』が誰を指すのかに気づき、ためらいもなく人(子ども)を「救うべき弱いもの」と「排除すべきクソったれ」とに分けている自分に疑問を感じるようになる。
たぶんこれは、ブリュノやソニアのような生きかたを責める映画なんかではなくて、彼らを「どうしようもないヤツ」としか見ない人たちに、それでいいのかと問いただす映画。
もっともそんな思いなんて、「自分は墜ちない」という根拠のない自信をとともに“こちら側”でノホホンと暮らしている者だけに許される感傷なのではあるが。
ドキュメンタリー・タッチに見えて、そして「結局どこへも持っていかない」という終幕にも思えて、実は相当の計算ずくで作られた作品である。
ちなみに本作は2005年のパルム・ドール。同年のノミネート作は『隠された記憶』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』など。
利口になれない人たち、自分は利口だと思い込んでいる人たちの、あがきながらの生きかたを描いた映画ばかりだなぁ。
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