マウス・ハント
監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ネイサン・レイン/リー・エヴァンス/ヴィッキー・ルイス/モーリー・チェイキン/エリック・クリスマス/アーニー・サベッラ/ウィリアム・ヒッキー/クリストファー・ウォーケン
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【目障りなネズミVS邪魔な人間】
兄アーニーがオーナー・シェフを務めるレストランは食中毒事件で閉鎖、弟ラーズの縒り糸工場も経営は火の車。行き場をなくした冴えない兄弟は、父が遺したオンボロの家で夜を過ごす。ところが、その家は有名な建築家による幻の作品と判明、資産価値は1000万ドル以上! 少しでも高く売って人生をやり直したいと考えたふたりは補修作業に取り掛かるのだが、このボロ家に棲みついた一匹のネズミが、兄弟の前に立ちはだかるのだった。
(1997年 アメリカ)
【バカ笑いできるけれどバカじゃない】
以前『ウェザーマン』の項で述べた通り、この監督は海賊大作よりも、こういう小っちゃな作品のほうがウンと面白い。いやぁもう面白い。3分に1回は腹を抱えて笑うほど問答無用に面白い。
ブラックに始まり、ほのぼので幕を閉じ、その間にはこれでもかとばかりにドタバタを連続させるシナリオが、まず良質。
ドタバタだからといって、頭の悪い仕上がりになっていないのもいい。たとえばレストランが閉鎖されたことを示すために、わざわざ保健所/衛生局などを登場させなくても、黄色いテープを張り巡らせればそれでいいのだ。ドアが開かないことを伝えたいなら「うわっ、開かない!」なんてセリフは不要、ただノブを引いて顔をギョっとさせればいいのだ。
そういう“観てわからせる”という作りが、ストーリー・テリングにテンポのよさをもたらす。
音の使いかたも聴き逃がせない。各カット/各シーンの冒頭に配されるのは、雷鳴とか投げられたカップが風を切る音とか、某クイズ番組でおなじみとなった「ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ~らら~」という軽快な音楽(アラン・シルヴェストリの作)とか、印象的なサウンド。これがまた展開にリズムを与える。
幻の家や傾きかけた工場(ホコリっぽさと湿り気と薄暗さがgood)をキッチリと再現した美術も頑張っているし、破壊と爆発とCGとを上手に融和させた特殊効果(スタン・ウィンストン)も素晴らしい。
また、一人称視点を多用したカメラワークは、このドタバタを身近に感じさせるための役割を担う。
で、その軽快&しっかり作られた世界で暴れまくるのが、見るからにわがままで分別のなさそうなネイサン・レインの兄アーニー、どう見ても鈍重でオーバーアクションも楽しいリー・エヴァンスの弟ラーズ。
そして、クリストファー・ウォーケン! あんた最高。いやぁ立ち姿だけで笑えるもんなぁ。コメディでは役者が真面目に演じれば演じるほど笑いは増す、というセオリー(そんなセオリーがあるのかどうか知らんが)を実証する名演技だ。
つまりはハマリすぎるほどのキャスティングなのだが、忘れてならないのがネズミくん。逃げ回り、逆襲し、知恵を働かせ、お休みもする。必要以上に擬人化されていないのが、かえってラブリー。この映画の陰の主役として大活躍を見せてくれる。
そう、小っちゃいといっても、随所に手間ひまがかけられており、センスの良さが詰め込まれている作品。ちょっとグロいところもあるけれど、バカ笑いができて、でもバカな映画じゃないという、稀有な逸品である。
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