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2008/04/12

クローバーフィールド/HAKAISHA

監督:マット・リーヴス
出演:リジー・キャプラン/ジェシカ・ルーカス/T・J・ミラー/マイケル・スタール=デヴィッド/マイク・ヴォーゲル/オデット・ユストマン

30点満点中19点=監4/話4/出3/芸3/技5

【クローバーフィールド事件の重要資料】
 日本への転勤が決まったロブ。兄ジェイソンやそのガールフレンドであるリリーらが催した送迎サプライズ・パーティーの最中、ニューヨークは何モノかの襲撃を受け、阿鼻叫喚の地獄と化す。ロブとジェイソン、リリー、出席者のマレーナらはマンハッタンから逃げ出そうと試みるが、救出を待つベスの身が気がかりなロブは……。この事件の後にセントラル・パークで発見されたビデオテープは、彼らの様子をハッドが撮り続けたものだった。
(2008年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【奇跡的に撮られた映像】
 世間では「SF的でリアリティもある」と評判の某映画を観てガックリ。戦隊モノなみのスケール、まるでラジオドラマのような説明的シナリオ、乏しい種類のレンズでまとめられた絵……。
 まぁ5億円なんてフザけた予算で撮られた割には頑張っているし、「実社会に怪獣がいたら」という視点を貫いたことにも好感、特撮もさすがだとは思うが、やっぱ、あくまでも小学生対象の映画。いや、だとしても小学生をバカにしていないか? というデキ、シリーズ3作とも冒頭5分でギブアップしてしまった。
 ちゃんと観ていないものを批判するのはアンフェアだから、それについては「すみません」と謝るが、ちゃんと観るに値しないものを作るほうにも責任はある。

 その点、ホンモノは違う。

 焦土と化したマンハッタンからこのようなテープがほぼ無傷で見つかったとは驚きだが、それが国防省の手を離れて上映されることにも驚きだ。
 おそらく米政府は“作り物”と一蹴するのだろうが、これがCGだとは到底信じられない
 まぁモンスターの造形を見る限り、そして戦争ではなく「事件」とされている点、軍の対応や最終手段選択までの時間が迅速すぎることなどを考慮すれば、発端は政府機関かそれに近い民間企業の極秘プロジェクトにあるはずで、真相を隠匿したいという思惑はわかるのだが。

 仮に本作が“作り物”だとしよう。確実に『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と比べられるはずだが、あちらになくてこちらにあるものは多い。そしてそれは、冒頭で述べた某映画に欠けていたものでもある。

 1つはスケール。ロブたちはミッドタウンを駆け回り、その行く先々で地獄絵図が広がるわけだが……。目の前で実際に爆発してるじゃん、瓦礫が跳ねてるじゃん、橋が崩れ落ちてるじゃん、ビルも崩壊してるじゃん、何百人もの人間が逃げ惑ってるじゃん、軍隊は撃ちまくってるじゃん、ステルス機が爆弾を投下してるじゃん。
 五臓六腑を押さえつける極低音の音響ともあいまって、まぁ身震いするほどのリアリティとド迫力である。

 そして、優れたシナリオ。何しろ「逃げているだけ」なので物語なんてないのだけれど、実は、綿密に構成されている
 日常から非日常への一気の滑落、ベスとの関係をこのままで終わらせたくないという焦り、呑気にケータイで事件を撮り続ける阿呆どもと暴徒と化す民衆の愚かさ。
 単に「襲われて逃げる」だけにとどまらない数時間、“if”の先が克明に映し出される。
 とりわけ印象的なのが、ラスト、ベスの口から漏れる皮肉なひとこと。これを見せるために、わざわざ“消されていない1か月前のデート”をたびたび提示する心配りが素晴らしい。
 絶対的に幸福な瞬間など次に来る予想外の事件によっていつ上書きされるかも知れないわけで、また、幸せな瞬間を捉えたプライベート・ビデオがこうして全世界に晒される未来というものもあり得るわけで。それが怖い。ベスは可愛いしロブは男前なので、このまま幸せでいて欲しかったのだが。

 撮影に関しては、もうハッドくんを絶賛するほかない。いつ死ぬやも知れぬ極悪な撮影条件下で、あくまで素人撮影の域にとどまりながらも奥行きや人物配置など実に計算された構図を貫徹する。モンスターの姿や出来事の全容を、チラリチラリからクッキリへ、少しずつ確実に進展させながら捉えていく。
 乏しい種類のレンズでまとめられた絵どころか、たった1台のハンディカムで撮られているというのに、なんと豊かでスピーディでクリアで激烈なカット/シーンの連続だろうか。
 ハッド、よくぞここまでカメラを手放さなかった。君が空気を読まないヤツでホントに良かった。

 結果として、『ブレア』は「アイディアを形にした」作品、本作は「アイディアを徹底的に形にした」もの、という差異が生じ、某映画とは比較するのもためらわれるほどの“完成品”が、ここに出来上がった。一発勝負のアイディアを青春パニック・ムービーへと、あるいは怪獣映画(テーマ曲が明らかに怪獣映画テイスト)へと昇華させているのだ。
 エンターテインメントとしては『宇宙戦争』のほうが上だろうが、いやいや、こちらは奇跡的に発見された実録モノとして相当のクォリティを持つムービーである。

 ただ不思議なのは、ビデオの中の出来事が他人事として感じられ、ハラハラよりワクワクが大きかった点、大事件の真っ只中に放り込まれるというより冷静に記録を観ているような気分になったこと。
 ハンディカムによる映像は、かように「どこか他所の世界」として目に映るのだと改めて認識させられた。
 つまり、意外と怖くはない。むしろ怖かったのは劇場の窓口で「画面の揺れが激しく、酔ってしまわれるお客様が多いのですが大丈夫でしょうか?」と訊かれたこと。ついビビって、いつもより2列くらい後ろの席を指定してしまった。

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