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2008/05/20

ボビー

監督:エミリオ・エステヴェス
出演:ハリー・ベラフォンテ/ジョイ・ブライアント/ニック・キャノン/エミリオ・エステヴェス/ローレンス・フィッシュバーン/ブライアン・ジェラティ/ヘザー・グラハム/アンソニー・ホプキンス/ヘレン・ハント/ジョシュア・ジャクソン/デヴィッド・クルムホルツ/アシュトン・カッチャー/シア・ラブーフ/リンジー・ローハン/ウィリアム・H・メイシー/スヴェトラーナ・メトキナ/デミ・ムーア/フレディ・ロドリゲス/マーティン・シーン/クリスチャン・スレイター/シャロン・ストーン/ジェイコブ・バルガス/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/イライジャ・ウッド

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【人々の営み、その蓄積を奪うもの】
 1968年6月5日、ドジャースのドライスデール投手が連続無失点記録を樹立した夜。ベトナム戦争、人種差別、環境問題などで荒んだ国民の希望を背負って合衆国大統領選に立ったロバート・F・ケネディは、予備選挙の只中、LAのアンバサダー・ホテルで暗殺される。支配人や給仕、アーティストとその夫、メイクアップ、引退したドアマン、式を控える新郎と新婦、選挙運動に駆け回る人々、記者たちの“その日”が描かれる。
(2006年 アメリカ)

【メッセージを、より強めるために】
 映画にテーマとかメッセージとか、別に必要ないんじゃないか、と考えるようになってきた。映画にしかできないことが実践され、映画ならではの楽しさが詰まっていれば、それでいいんじゃないかと。

 その点、本作は紛れもなく“映画”だろう。
 薄暗く雑多なホテルの厨房、ロビー、ホール、客室を舞台に、対象となる人物がスっと背景から浮かび上がるような撮りかた。動的なカメラによって男女は自在に、かつスマートに画面内へと配され、1つ1つのシーンが細かく丁寧に重ねたカットで作り上げられる。それらのシーンがポンと切り替わり、幾多の人生が描かれていく「グランドホテル型」構成も心地よい。
 人物たちがその日その場へ至るまでの背景、あるいはカットされた部分の言動まで自然と匂わせる脚本と人物造形も良質だ。
 各キャラクターは、超豪華と呼ぶべきキャスト(当ブログで取り上げた作品に、本作の主要キャスト24人のうち18人が出演している)が見事なアンサンブルによって掘り下げられ、表現される。
 バックに流れ漂うのは、マーク・アイシャムによる重く悲しくスコアと、当時の流行歌。
 もちろん、それらをしっかりとまとめあげた演出の手腕も大きい。

 すなわち、さまざまな要素がきっちりと美しく編み上げられることで生まれた一編、という意味で、これは“映画”なのだ。

 いっぽうで、テーマ/メッセージを持てば、技術・要素や演出プランがそこへ向かって集約されやすくなり、映画に厚みと格と一貫性が生まれるのも事実。
 本作の場合、作り手はラストで流れるボビーのスピーチに深い想い入れを抱いているのだろう、その言葉ひとつひとつにより大きな説得力を持たせるための映画として仕上げられているといえる。

 ただし、ボビーのメッセージに余計な肉づけを施したり、彼の言葉から導き出される倫理を声高に唱えたりするのではなく、人を「切り取って描く」ことに徹しているのが興味深い。
 嘆いたり、寄り添ったり、差し伸べたり、認めたり、罵ったり……。そうした人の、美しい部分も汚らしい部分もひっくるめた人という生き物のありようを、最低限のサイズで抽出して見せようとするのだ。
 それぞれの生きかたは滑稽だったり焦れったかったりして、ともすれば冗漫・平坦にも感じられるのだが、まさに、その平坦さこそが人生。それに、いいものであれ悪いものであれ、誰かと関わりあって生きることで人生は作られていくものなのだ。そんな想いが伝わってくる。
 そして、そんな小さな人の営みを、最大の愚行である“暴力”がゼロに帰してしまうのだ。そのことに対する、悲嘆。

 調べてみるとロバート・F・ケネディという人物、必ずしも完全にノーブルでもピュアでもなかったようだが、それでも彼の言葉や行動が当時の人たちにとっての希望であったことは確かだろう。
 以前『モンスター』『バベル』の感想で、人と人とを相互理解へ導くのは想像力と思いやりだと書いた。そのことを強く訴えかけるスピーチであり、その強さをさらに堅いものとする映画である。
 理想主義はエゴによって斃されてきたが、それでもなおエゴイズムを駆逐するのは、やっぱり理想主義であるはずだ。

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