パリ、ジュテーム
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3(平均)
【その街で綴られる、いくつもの愛】
ドライバーと行き倒れの女性、学生、男と男、冴えない旅行者、シングルマザー、セールスマンと美容師、妻を看病する夫、息子を亡くした母、パントマイマーのカップル、父と娘と孫、ヤク中の映画製作者と売人、怪我人と救命士、倦怠期を迎えた夫婦、吸血鬼と若者、結婚間近のふたり、女優の卵と盲目の青年、離婚の相談、ひとり旅の女性……。いくつもの“愛”が、朝と昼と夕暮れと夜のパリで、ひっそりと紡がれていく。
(2006年 フランス/リヒテンシュタイン)
【それぞれの“やりかた”で描かれる愛】
描かれた“愛”は、始まり、経過(切り取り)、そして終わりと大別できる。孤独な愛から華やかなものまでを網羅し、登場人物も10代から老年期まで幅広く、「これが愛のすべて」とはいわないまでも、かなりバラエティに富んだ内容だ。
作風もバラエティ。まぁこれだけのメンツを集めたんだから当然だが。
比較的オーソドックスに撮られたものが多いのに、それでも各監督の“らしさ”がにじみ出してきているのが可笑しくもあり、うれしくもある。ついでに、行ったことのある場所もいくつか出てきて、それもまたうれしかったり。
ウェス・クレイヴンがいかにもクレイヴンっぽい作品で死体になっていたり、そのクレイヴンが意外にも善良なものを作っていたり、そこに「人への温かな目」を持つアレクサンダー・ペインがそのまんまの役どころで出ていたり、みんな楽しみながら作っていることもうかがわせる。
2時間で18エピソード、1本あたり5~6分ほどのショートショート集で、短編のまとめかたのカタログのようでもある。
●モンマルトル
監督:ブリュノ・ポダリデス
出演:ブリュノ・ポダリデス/フロランス・ミューレル
始まり型。人物との距離感がよくて親しみは覚えるし、バックミラーを利用した上手な演出も見られるが、「それだけ?」という内容で深みや味わいはない。14点。
●セーヌ河岸
監督:グリンダ・チャーダ
出演:シリル・デクール/レイラ・ベクティ
始まり型。夕刻の空気感を大切にしているあたりは『ベッカムに恋して』と同様。説得力を増すような要素を詰め込まなかったことも『ベッカム~』と同じだが、そのぶん等身大の若者を描いた瑞々しさがある。主演ふたりの視線を大切にした撮りかたにも好感を覚える。レイラ・ベクティちゃん、可愛いし。17点。
●マレ地区
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:イライアス・マッコネル/ギャスパー・ウリエル/マリアンヌ・フェイスフル/クリスチャン・ブラムセン
始まり型。人は頼り頼られる関係で成り立つ、いつも誰でも居場所を探している、というのは『グッド・ウィル・ハンティング』と同じだな。言い寄ってくるほうの男をウザく撮り、それでもそこに言い寄られる側の“ここから前へ踏み出せる可能性”を感じさせる、爽やかながら寂しいお話。孤独を知っていないと、こういうものは撮れないだろう。17点。
●チュイルリー
監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演:スティーヴ・ブシェミ/ジュリー・バタイユ/アクセル・キーナー
切り取り、というか、いかにもコーエン兄弟らしいブラックな小品。セピア調の画面とトボけた味わいも『レディ・キラーズ』っぽい。ただ、それ以上でもそれ以下でもない。16点。
●16区から遠く離れて
監督:ウォルター・サレス/ダニエラ・トマス
出演:カタリーナ・サンディノ・モレノ
切り取り型。ブラックというなら、むしろこちらのほうがブラックかも。「なにやってんだろ、私」というつぶやきが聴こえてきそうな、たまらなく寂しい空気と時間の流れがいい。ひょっとするともっと温かな意味合い(等しい愛)を持たせたのかも知れないが、「少し遅くなるかも」といわれたママの微妙な表情と間(ま)は、素晴らしく寂しい(なんだか訳のわからない勘違いをしていたので訂正しました)。17点。
●ショワジー門
監督:クリストファー・ドイル
出演:バーベット・シュローダー/リ・スィン
切り取り型。趣味全開。それだけ。14点。
●バスティーユ
監督:イザベル・コイシェ
出演:セルジオ・カステリット/ミランダ・リチャードソン/エミリー・オハナ/レオノール・ワトリング
終わり。全編の中で、もっとも適確に「愛の真理」を詰め込んだ作品ではなかろうか。妻が好きなものを自分も好きになる、というのは、いやホントに結婚というカタチの愛そのものだよ。ただ、撮りかたとしてはフツー、ナレーションに頼っちゃった感じもある。16点。
●ヴィクトワール広場
監督:諏訪敦彦
出演:ジュリエット・ビノシュ/イポリット・ジラルド/ウィレム・デフォー
終わりでもあり、切り取りでもある。短編にするには、ちょっと無理のあるストーリー。そのぶん演技力の確かな役者を使って「そのひとときの家族の心情」を表現しようとするんだけれど、ならばもっとコッテリとお芝居を見せる方向でまとめるべきだった。15点。
●エッフェル塔
監督:シルヴァン・ショメ
出演:ポール・パトナー/ヨランド・モロー/ディラン・ゴモン
始まり型かな。ドライブ中のパパをアオリで捉えた絵がアニメっぽいなぁと思ったら『ベルヴィル・ランデブー』の人だったか。これも趣味全開でシュールなんだけれど、「誰になんと思われようが、僕らには僕らの愛のカタチがある」というメッセージ性は強く、意外と健やかな作品。17点。
●モンソー公園
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ニック・ノルティ/リュディヴィーヌ・サニエ/サラ・マーティンス
経過。でも、1本の作品としての完結度は全エピソード中1、2を争うほど高い。「こういうの、どうだろう?」という“思いつき”をキュアロンらしい鮮やかさでしっかりとまとめてみせた。ニック・ノルティの親父さんぶり・爺ちゃんぶりも微笑ましい。18点。
●デ・ザンファン・ルージュ地区
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:マギー・ギレンホール/リオネル・ドレイ/ジョアンナ・プレイス
経過型かな。これまたショートストーリーには不向きな内容で、長編の冒頭部分を取り出したような作り。そのぶんマギー・ギレンホールの表情をクッキリと捉えて芝居勝負の作品、プラス、ドキュメンタリータッチのスリリングな空気に仕上げてあるのは、いい。16点。
●お祭り広場
監督:オリヴァー・シュミッツ
出演:セイドゥ・ボロ/アイサ・マイガ
始まりであり、経過であり、終わりでもあるという恐るべき作品。全作中もっとも出演者とカメラ(観客)との距離が近く、その撮りかたがキリキリと、孤独や痛みや焦りや諦観となって突き刺さってくる。タイトル(場所)と出来事のギャップも、愛の象徴ともいうべきドゥ・カフェも、このうえなく寂しい。19点。
●ピガール
監督:リチャード・ラグラヴェネーズ
出演:ファニー・アルダン/ボブ・ホスキンス
経過、というより愛の“再生”か。ジャック・ニコルソンがやりそうなコメディを数分でやっちゃった怪作。笑えるけれど、それ以上でもそれ以下でもない。15点。
●マドレーヌ界隈
監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:イライジャ・ウッド/オルガ・キュリレンコ/ウェス・クレイヴン
始まり? かなりズルイ作品。1本くらいはこういうのが入っててもいいでしょー、真っ当なのは他のみなさんに任せますよー、これってホラ仕掛けにもなるしー、というナタリ監督の“ほくそ笑み”だけで撮られている。そのぶん、ダーク・ブルーの中に輝く赤という見た目にこだわって、短編らしくまとめてあるのは誠実。おまけの17点。
●ペール・ラシェーズ墓地
監督:ウェス・クレイヴン
出演:エミリー・モーティマー/ルーファス・シーウェル/アレクサンダー・ペイン
経過型。なんとも意外なことに、全編中もっとも善良というか「どこにでもあるフツーの愛」をスリラー専門の監督が撮っちゃっている。そうそう、男にとっての愛って女に振り回されるためにあるもので、ふとしたキッカケでスイッチが入ってぶわぁ~っと突き進むものなんだよね。18点。
●フォブール・サン・ドニ
監督:トム・ティクヴァ
出演:メルキオール・ベスロン/ナタリー・ポートマン
始まり+経過。稚拙な思いつきを、早送りなど見た目のユニークさと軽快な打込み音楽で強引にまとめてしまった、いかにも『ラン・ローラ・ラン』のティクヴァらしい仕上がり。ただ、短編としてのまとまりは良。ナタリー・ポートマンは相変わらず可愛いし。16点。
●カルチェラタン
監督:フレデリック・オービュルタン/ジェラール・ドパルデュー
出演:ベン・ギャザラ/ジーナ・ローランズ/ジェラール・ドパルデュー
終わり型。舞台劇風でまったく映画らしくはないんだけれど、3人のベテランのお芝居をそんまんま見せるという方法論で、きっちりと“愛”を感じさせる仕上がりとなった力技の作品。17点。
●14区
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:マーゴ・マーティンデイル
始まり型。こういう“イケてない人の幸せ”を撮らせたら、この監督の右に出るものはいない。テイストとしては『アバウト・シュミット』や『サイドウェイ』と同じで、淡々と流れる時間の中にクスリとした笑いと人生の真理を盛り込んで見せる。そう、何かや誰かを好きになる瞬間って、こういうものなんだよね。特別な部分ではなく、ごくごく当たり前の顔に触れて、ふと好きになっている自分に気づくものなのだ。
そして、ヨーロッパの街や日本にある洋館・教会に足を踏み入れて、なぁんか妙に懐かしさを覚えて、「あ、俺って前世はあっちで暮らしていたカトリックだったんだ」とまで思った人間が、ここにいる。18点。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント