パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ジョニー・デップ/オーランド・ブルーム/キーラ・ナイトレイ/ジェフリー・ラッシュ/トム・ホランダー/ビル・ナイ/ナオミ・ハリス/チョウ・ユンファ/ケヴィン・R・マクナリー/ジャック・ダヴェンポート/ステラン・スカルスガルド/ジョナサン・プライス/マッケンジー・クルック/リー・アレンバーグ/デヴィッド・スコフィールド/デヴィッド・ベイリー/キース・リチャーズ
30点満点中18点=監3/話2/出5/芸4/技4
【海賊VS海賊VS独裁者の死闘、そして恋に、終止符が打たれる】
ジャック・スパロウ船長を海に沈めたデイヴィ・ジョーンズ。そのジョーンズも弱点である心臓を東インド会社のベケット卿に握られ、いまや海賊は駆逐されようとしていた。蘇ったバルボッサ、ウィル、エリザベスらは事態を打開するため、あの世からジャックを連れ帰ろうと考える。ジャックを含む9人の海賊長を召還して海の精カリプソを蘇らせ、ベケットらに対抗しようというのだ。だが、さまざまな権謀術数が敵味方の間で渦巻いていた。
(2007年 アメリカ)
【外観は実に立派、中身がもう少し整理されていれば】
3作目となって、このシリーズのマズさがさらに際立つこととなった。登場人物たちのプライオリティとアイデンティティが曖昧なのだ。
主人公たるジャックは相変わらずテキトー人生を歩み、ウィルは父とフィアンセの間で揺れ動き、エリザベスもバルボッサも何を考えているやら。デイヴィ・ジョーンズは苦悩したいのか暴れたいだけなのか、ティア・ダルマは悪女なのか悲しき存在なのか……。
みぃんな自分勝手に、あるときはAのために、またあるときはBのためにと立場がコロコロと変わる。おまけに取り引きと裏切りと行き当たりばったりの行動が連続するもんだから、お話がどこへ向かって進んでいるのやらわかりにくくてかなわん。
そんなわけで前作『デッドマンズ・チェスト』で述べた感想を繰り返させていただく。「えっと……、いまこの人は誰のために何をしようとしているんだっけ?」という疑問を引きずったままストーリーが進み、どこに感情移入して観ていいのか、つかみづらいのだ。
それが、イマイチこのシリーズを“ノれない”ものにしてしまっている。
全員に固定されたベクトルを与えよとはいわないが、もうちょっと骨格・枝葉を整理してもよかったんじゃないか。なんだか「ここでコイツにこういう行動を取らせたら、話がややこしくなって面白そう」と、作り手自らが行き当たりばったりだったように感じる。
まぁ今回は、ベケットを絶対悪と位置付け(こいつのやることは、すべて悪と考えればいいわけだ)、「ジョーンズの心臓を誰がどうするか?」という部分に焦点を当てた進行をメインとしたため、ギリギリのまとまりは生まれているとはいえる。
また、取り引きと裏切りと行き当たりばったりを詰め込めるだけふんだんに詰め込んだぶん、前作で見られたダラダラ感は少なくなった(それでもまだ長いと思うが)。だいたい、開幕から30分たってやっと主人公が登場するなんて、あり得ない作り。それでもジャック不在の寂しさを感じさせず、登場してからは目いっぱいに活躍させて(『シークレットウインドウ』のパロディもあるし)、さらなる怒涛の展開へと持ち込むのだから、そのあたりは上手いと感じさせるが。
それに、映画としての見せかたも良質だ。
スタントとCGをハイレベルで融合させたアクション&爆破シーンは迫力たっぷりで一見の価値がある。
絞首刑やバズーカの反動、サオ・フェンのアジト、まるで古い図書館から引っ張り出してきたかのような『海賊の掟』など、美術造形やディテールにも見どころはたっぷり。かなり芸が細かい。
役者・キャラクターたちの魅力も、さらに増した。
どこかフニャフニャしたところのあったウィル=オーランド・ブルームは実にたくましくなったし、バルボッサ=ジェフリー・ラッシュも頼もしい。それに、やっぱりキーラ・ナイトレイね。これまでよりもやや日に焼けたことで野性味が漂い出し、ちょっとジャックに似てきたところも見せてくれたりして、相当にキュートだ。
かなりの数の登場人物を配してあるのだが、サオ・フェンのチョウ・ユンファ以外は誰ひとりおろそかにせず、きっちりと“ケリ”をつけているのもある意味で見事だ(そのせいで煩雑になったともいえるのだが)。わかっていたとはいえ、キース・リチャーズの扱いなんか実にズルイし。
これら周辺キャラクターが“立派”になったおかげで、ジョニー・デップは余裕を持って生き生きと動く。
と、仕上がりが鮮やかなだけに、なおさら「ゴチャゴチャした展開」であることが惜しまれる。子どもにもわかるほどスッキリとして、大人が観ればさらに味わいも感じる、そんなシナリオを用意できていれば、伝説に残る3部作になっただろうになぁ。
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