王と鳥
監督:ポール・グリモー
声の出演:ジャン・マルタン/パスカル・マゾッティ/アニエス・ヴィアラ/ルノー・マルクス/レイモン・ビュッシエール
30点満点中17点=監4/話2/出3/芸5/技3
【暴君に追い詰められる恋人たち】
タキカルディ王国を治める暴君、シャルル5+3+8=16世。彼が気に入らなかった者は、すべて消える運命だ。王は絵に描かれた羊飼いの娘を見そめるが、娘は隣に飾られている煙突掃除の少年に恋心を抱いていた。絵から飛び出して逃げ出す娘と少年。だが肖像画から抜け出した王は、警察長官や警官たちとともにふたりを追い詰めていく。ひなを少年に助けてもらった鳥が恋人たちを助けようとするものの、奮闘空しくふたりは捕らえられる。
(1980年 フランス アニメ)
【進化の発端】
もう何十年も前から『やぶにらみの暴君』の話だけは聴いていたけれど、なるほど圧倒的な絵だ。
城内は一見シンプルながら細部までしっかりと描かれ、キャラクターは指先まで細やかに動く。モノの重みや軽さ、空気の密度と温度、高さ・奥行き・広がりといった立体感まできちんと再現される。人物の後ろに背景があるのではなく「世界の中に人物がいる」という構図が徹底されていて、そのリアリティもすごい。
色塗りの瑕疵やリマスターの割に荒れた画質は気になるものの、相当に芸術的かつ技巧的な“絵”の連続である。
その絵が創り出す世界は、実にユニーク。エレベーターやロボットや工場などのガジェット類、石段と鉄でできた城内など、ワンダー・ワールドが広がる。警官が乗るアヒル型ボートが、なんともラブリー。
宮崎駿がどんだけ影響を受けたかは、もう一目瞭然。よくいわれる『カリオストロの城』だけでなく、『未来少年コナン』の三角塔、その2作品に共通する「高い塔の姫君」というモチーフ、あるいは『風の谷のナウシカ』の巨神兵など、「結局のところ宮崎アニメって、この作品のパクリじゃん」といいたくなるほどの元ネタのオンパレード。
恐らく『ICO』や『ゼルダの伝説 トライライトプリンセス』といったゲームにも、本作の遺伝子は受け継がれているのではないか。
ストーリー的には、ちょっと観念的すぎて好みには合わず。
偽りの敬いによって作られた権力、それは「肖像画が実体化する」ことによってさらに純化し、暴走を経て崩壊へといたる。そうしたテーマ性と流れはあるものの、表面的には追いかけっこと逆転の話。シンプルなのはいいとして、スパイス的要素や展開の鮮やかさ、力感や余韻には欠ける。
ただ、本作を上手に消化して昇華させ、権力よりもピュアな愛の存在や切なさなども付加し、アクションやカタルシスもたっぷり、余韻も残る先述の諸作品が生まれたことは確かだろう。
そうした“正当な進化”の発端にあるものとして、極めて意義の大きい映画だと思う。
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