スキャナー・ダークリー
監督:リチャード・リンクレイター
出演:キアヌ・リーヴス/ロバート・ダウニー・Jr/ウィノナ・ライダー/ウディ・ハレルソン/ロリー・コクレーン/アンジェラ・ロウナ/チャンブリー・ファーガソン/ジェイソン・ダグラス
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3
【俺が、俺を、監視する!?】
覆面捜査官フレッドはボブ・アークターの偽名を使い、麻薬密売人のドナやヤク中のバリス、ラックマン、フレックらと行動をともにしていた。捜査対象は、蔓延する謎の薬物“物質D”。だがアークターの正体を知らない当局は、彼こそが“物質D”流通における重要人物だと判断、フレッドに監視を命じる。自分自身を監視することになったフレッド=ボブ・アークター。奇妙な立場に置かれた彼は、ストレスと“物質D”に蝕まれていく。
(2006年 アメリカ アニメ)
【目に映るものの不確かさ】
フィリップ・K・ディックの原作を、いったん実写として仕上げてからわざわざアニメ化した、という生い立ちからしてもうカルトにしかなり得ないわけだが、実際、その作りには独特のマイナー臭さがプンプンと漂う。
雰囲気がガラリと異なるシーンをつなぎ、各シーンを長めにし、しかもそこにヨタ話ばかりを盛り込む。ストーリー展開に大きな抑揚はなく、いちばんの山場はときおり挟まれるキアヌ・リーヴスのアップという豪胆さ。
だがそのジリジリとした作りが、薬物(Dとはドラッグの総称か?)に蝕まれる人々の苛立ちと腐敗とを、観る者の目にジリジリと焼き付けていくことにもなる。
考えざるを得ないのは、なぜこのような手法を採ったのか、という点。てっきりコンピュータをバリバリ活用してチョチョチョイと処理したのだろうと思っていたら、なんとペン・タブレットで1フレームずつ手書きの絵を起こし、18か月もかけてアニメ化したのだという。
道理で、線の質感や各人物の動き、細かな陰影が、妙にリアルで妙にギクシャクしていて、ただのセルアニメでもフルCGでも味わえない不可思議な世界として迫ってくる。
そこまでしてでも、「いま目に映っているものの不可思議さ・不確かさ」を具現化したかったのだろう。脳を破壊されるとモノゴトはそのまんまのカタチで自分の中に飛び込んでこなくなる、というだけでなく、たとえマトモな人間でもモノゴトの本質をそのまま見ているとは限らないのだ。
加えて、ロバート・ダウニー・Jrとダスティン・ホフマンは、こうして見ると区別がつかない、ということもわかる。いや、本作とはまるっきり関係ないけれど。
クライマックスがやや説明口調すぎ+淡白、『ソイレント・グリーン』あたりと比べると衝撃も薄く、映画としては褒められない部分も残すが、アンチ・ドラッグとSFサスペンスと実験的手法とを立派に混在させたという意味で、記憶にとどめておくべき作品である。
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