ルネッサンス
監督:クリスチャン・ヴォルクマン
声の出演:ダニエル・クレイグ/キャサリン・マコーマック/ロモーラ・ガライ/ジョナサン・プライス/イアン・ホルム/ジェローム・コージー/ケヴォルク・マリキャン
30点満点中17点=監4/話2/出3/芸4/技4
【行方不明の女性科学者、その裏には……】
パリに本拠を置く巨大化学企業アヴァロン。その併設診療所に勤める優秀な女性科学者イローナが何者かに連れ去られる。検察の指示を受け、カラス警部を中心とする警察は、イローナの姉ビスレーン、診療所の所長ジョナス・ムラー博士、アヴァロンの副社長ダレンバック、さらにはカラスの幼馴染で裏社会の大物ファーフェラらと接触、イローナの行方を捜す。だがこの事件の陰には、人類社会の未来をも脅かす驚愕の事実が潜んでいた。
(2006年 フランス/イギリス/ルクセンブルグ アニメ)
【鮮やかなモノクローム・ワールド】
モーション・キャプチャーで取り込んだアクションを、わざわざモノクロームのCGアニメにして提示するというこだわりを見せる映画。スノードームのようなオープニングから、もう魅力的だ。
いや、単なるモノクロではない。ネガフィルムというか版画というか。中間色のグレーがほとんど使われていないため、コントラストの強烈な世界が眼前に迫る。
それはつまり、完璧にコントロールされた露出。光があるから陰があり、陰があるから光が際立つ、そんな単純な事実を思い知らされる。まぶしさは白一色で、暗さは黒一色で描き分けることができるのだなぁ。
また、モノトーンの絵柄はキャラクターの表情をクッキリと浮かび上がらせることにもなる。その強みを生かして、目の動きや口のゆがみ、怒りや焦燥など、顔の演技にスポットを当てているのが印象的。やや頭部の大きい人物デザインも、その演出プランの表れだろう。
肌や肉の質感まで黒と白で表現してしまっていることも驚きだが、ひらひらと“舞い上がる”雪の浮遊感もリアル。ただの思いつきにとどまらず、丁寧な描き込みを感じさせる作画だ。
モノトーンだからといって奇異に映らないのが不思議。実写的なカメラワーク/カットワークとシンプルなストーリーがそうさせているのだろう、普通の感覚で観られるSFハードボイルド&フィルム・ノワールとしての仕上がりを見せている。アヴァロン本社ビルや上下2層の橋といった美術造形もユニークだし、全体に流れるガチっとしたBGMも良質だ。
例によって挿入されるCM用のブラックアウトはいただけないし、この手のストーリーには不可欠な“人類の、種としての哀しさ”や“不幸な出会いをしてしまった男と女の切なさ”が欠如しているのも残念だが、まさか『ブレード・ランナー』や『攻殻機動隊』の正統的後継作品に、こういう形で出会えるとは思わなかった、という感慨を抱ける映画といえる。
さて、当然ながら「なんでわざわざモノクロCG?」という疑問に踏み入らざるを得ないわけだが、正直「とりあえず、やってみたかったんだろう。アイディアが先にあって、それに適した題材を無理やり持ってきたんだな」という感じ。
実はそういう“映画としてやってみたいことが、まずありまして”という方法論は大好きなんだが、もう少しお話を練り込みつつ、「この方法でしか観客に与えられない衝撃」にまで進んで欲しかったところ。そこまで突き抜けていないのが惜しい。
カラーが見られるのは、ある罪深き人物が描く絵と、エンドクレジットのラストに登場するスポンサー/協力企業のロゴ。その両者に通じるのは「肥大化し、無限を求めることが、すなわち美であり善である」という歪んだ価値観か。
そんな人類のいびつさ(あるいは「ルネッサンス」と聞くとどうしても髭男爵を思い出してしまう私の腐った脳)を徹底的に糾弾する「だからモノクロでなきゃダメだったんです」な映画として完成していれば、超カルトになったと思うのだが。
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