ハッピーフィート
監督:ジョージ・ミラー
共同監督:ジュディ・モリス/ウォーレン・コールマン
声の出演:イライジャ・ウッド/ブリタニー・マーフィ/ヒュー・ジャックマン/ニコール・キッドマン/ヒューゴ・ウィーヴィング/カルロス・アラズラキ/ジョニー・A・サンチェス/ジェフ・ガルシア/ロンバルド・ボイアー/マグダ・ズバンスキー/ロビン・ウィリアムズ
30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4
【歌えなくったって、僕はハッピー】
皇帝ペンギンのメンフィスとノーマ・ジーンの間に生まれたマンブルは、いつまでもヨタヨタとしか歩けず、産毛も抜けないまま。しかも、皇帝ペンギンの世界では“心の歌”を高らかに歌い上げてこそ一人前なのに、マンブルは超オンチだった。長老たちに蔑まれながら、でもマンブルは得意のダンスでアデリーペンギンの“アミーゴ”たちと仲良しになる。最近サカナの量が減っている理由を探るため、マンブルたちは旅に出るのだった。
(2006年 オーストラリア/アメリカ アニメ)
【見た目の迫力は満点だが】
出てくるのは9割がたがペンギン、背景もほとんどが氷原。手間がなくて楽なように思えて、実はかえってタイヘンだったろう。いかにしてキャラクターを描き分けるか、いかにして単調さを排するか、作り手はそのあたりに気を配ったはずだ。
それを、まずは“物量”という手法でクリアする。とにかく大量にペンギンを登場させて歌わせて踊らせる。しかも、1つの画面に多彩な動きを盛り込む丁寧さ。なかなかの密度感だ。
質感の表現も見事で、ペンギンのしなやかさ、シャチのヌメっとした肌、氷塊の重さと落下の浮遊感、地面に残される足跡、水中や氷上のスピードなどをしっかりと再現。特に冷たい霧と風はそれ専門のアニメーターがクレジットされているほどで、圧倒的なリアリティを示す。
物量と質感だけでなく、ペンギンたち(のCG)がちゃんと“演技”していることも素晴らしい。表情や力を入れた際の身体のラインが、各シチュエーションに適した動きを見せるのだ。
カメラワークも凄まじい。まぁ動く動く。目が回るほどに。南極という舞台があり、ペンギンたちが生きていて、そこにカメラが入り込む、というアングルやカメラの動きが徹底されていて、それが世界の広がりと実在感をしっかりと表現している。
声を当てた人たちも芸達者ばかり。ロビン・ウィリアムズの凄さはいうまでもないが、完璧にマンブルになり切っていたイライジャ・ウッドのほか、ブリタニー・マーフィもヒュー・ジャックマンもニコール・キッドマンもヒューゴ・ウィーヴィングも、実際にどこまで歌っているのか知らないが、いやもう「さすがは銭の取れる役者やなぁ」という感じ。役と声(と演技)のマッチングについては、かなりレベルが高い。
見た目と声の素晴らしさに加えて、音楽も歌も踊りも楽しさにあふれ、メンフィスとノーマ・ジーンというネーミング、なんだかザイアス議長っぽい長老の設定、あるいは『LOTR』とか、パロディいっぱいでワクワクもニヤニヤも詰まっている。
が、トータルで考えた場合、あんまり楽しくないのはなぜだろう。たぶんそれは、あまりに説教臭くなりすぎてしまったから。
個をつぶす社会システムに対する批判、得意分野を伸ばせばいいじゃないかという子育て方法論まではまだいいとして、後半、真っ向から“エコ”に切り込んでいくあたりでシラケる。
船や建造物が「おぞましいもの」として描かれるのは確かにショッキングだし、ご家族向け映画に啓発を潜ませる手法もあっていい、説教部分にこれ以上時間を割かなかったのも見識だと思う。が、なんか「どうです皆さん、ちょっと考えてみませんか?」「お子様に見せてよかったでしょ」という狙いがあからさまで。
それに、どんなに「自分らしく」を強調しても、結局は主役/ヒーロー/ヒロインと、脇役/コーラス隊に、登場キャラクターたちを分けちゃっているじゃないか。
テーマ性とストーリーとを上手に結びつけつつエンターテインメントに仕上げる、という手際は、やはりピクサーのほうが何枚も上だろう。
ワンダフルな要素もいっぱいあるが、ストーリー構成というか、いいたいことを映画としてまとめる技術の部分で“クサさ”を感じてしまう作品だ。
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