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2008/08/25

墨攻

監督:ジェィコブ・チャン
出演:アンディ・ラウ/ファン・ビンビン/ワン・チーウェン/チェ・シウォン/ウー・チーロン/アン・ソンギ

30点満点中17点=監4/話2/出3/芸4/技4

【思想をまとい、10万の敵と対峙する男】
 中国・戦国時代。燕を攻めようとする趙は、その途上にある梁をまず討とうとし、優れた戦略家として知られる巷淹中将軍を送り込む。10万もの大群に包囲された梁王は降伏へと傾きかけるが、そこへやって来たのは革離。彼こそは梁が待ち望んだ救いの手、城の防衛に卓越した技術を発揮する思想家集団“墨家”からの使者だった。4000人の民衆を率い、次々と趙軍を撃退する革離だったが、梁の城内では彼への不信の声もあった……。
(2006年 中国/日本/韓国/香港)

【詰め込みかたのマズさが惜しまれる】
 序盤、状況説明やキャラクター説明(梁王の、いかにも悪君らしい感じなんか上手く出ている)を手際よくすませ、本編へと入っていくテンポのよさが良好。単に「説明」にとどまらず、弓をナナメに構えて“特別なこと”をしようとする子団など、画面で「描写」する意気もうかがえる。

 その画面の雰囲気が、またいい。陰影を大切にした絵、砂漠らしい光の射しかた、スピード感と奥行き・広がり。剣戟はややまだるっこしいが、人が燃え、叩き落とされ、死体を踏み越えて闘う戦場の凄まじさはなかなかのものだろう。そこへ、しっかりと芯のあるBGMが乗っかる。
 撮影監督は阪本善尚、照明は大久保武志、美術はイー・チェンチョウ、音楽は川井憲次。みな水準以上の仕事で、ふむ、しっかりコーディネートすれば日本人スタッフにだって(あるいはアジア的寄せ集めにだって)雰囲気のある世界を作れるじゃんよ、と感心してみたり。

 が、お話が進むにつれてストーリーの粗(あら)が見えてくる。
 梁王のいい加減さ、それを唆す重臣、革離に思いを寄せるようになる逸悦と傾倒していく子団、徐々に培われる革離と若君・梁適との信頼関係、巷淹中による計略……。そうした大枠を、もっと面白く、もっと味わい深くするためのディテールがことごとくスっ飛ばされているのだ。
 おかげで、やや唐突な、ダイジェスト的な仕上がり。そしてこの性急な展開は、本作のテーマである革離の葛藤、というか“生きることに対する価値観の違い”の描写を、浅いものにしてしまっている。

 いや実際、上記のもろもろに、裏切り者たちの心の揺れとか、幼い子どもたちや農民の生活ぶりとか、奴隷の男とか、細かなエピソードを加えて、倍の時間=5時間くらいの作品(TVシリーズ)にしたほうが、はるかにいいモノになったはずだ。

 なぜ人は争うのか、特別な人を愛することと広く人を愛する「兼愛」との矛盾、親切や好位を拒否したり訝ったりする人の業……。これらを掘り下げて描こうとする“確固たるプランニング”があり、それをもとに、入れ込むこと・省略すること・人物の言動を上手に整理すれば、2時間半くらいでももっとまとまりのいい作品になっただろう。
 そうなったときにはじめて、革離と奴隷との問答も余韻を増すはず。部下に連れ去られるようにして撤退する将軍のシーンから滲み出す「好んで死に急ぐことないじゃん」という、大勢の庶民が持つ価値観も痛烈なものとなったはずだ。「兼愛」「非攻」など墨家が唱えるさまざまな主張を、観客が自分なりの価値観で検証できる映画にもなったことだろう。

 見た目の雰囲気はいいのだが、詰め込みかたのマズさが足を引っ張って完成度を下げている作品だと思う。

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