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2008/08/09

もしも昨日が選べたら

監督:フランク・コラチ
出演:アダム・サンドラー/ケイト・ベッキンセイル/デヴィッド・ハッセルホフ/ヘンリー・ウィンクラー/ジュリー・カヴナー/ショーン・アスティン/ジョセフ・キャスタノン/ジェイク・ホフマン/テイタム・マッキャン/ケイティ・キャシディ/キャメロン・モナハン/ジェニファー・クーリッジ/レイチェル・ドラッチ/ニック・スウォードソン/ロブ・シュナイダー/ジェームズ・アール・ジョーンズ/クリストファー・ウォーケン

30点満点中18点=監4/話4/出3/芸4/技3

【すべてを思い通りに操れるリモコン。けれど……】
 妻のドナ、幼い息子ベンと娘サマンサ、そして愛犬サンダンスと暮らす建築士のマイケル・ニューマン。家族そっちのけで仕事優先の生活を続ける彼は、謎の男モーティから“万能リモコン”を手に入れる。サンダンスの鳴き声を小さくしたり、思い出のあの頃を再現したり、なんでもできるこのリモコン。マイケルは、妻との口論や面倒な仕事など都合の悪い時間を早送りで飛ばしていくのだが、その代償はあまりにも大きいものだった。
(2006年 アメリカ)

【しっかりと教訓を伝える軽快作】
 ひょんなことから手にした力、それを調子に乗って使っているうちにとんでもない事態へと陥り、やがて気づく大切なもの。あるいは、日常を積み上げていくことの尊さ、失ってしまった時間の尊さ……。
 こうした構造・展開・テーマ性はハッキリと使い古されたもので、たとえば真っ先に思い浮かぶ『ブルース・オールマイティ』のほか、『フォーチュン・クッキー』とか『エターナル・サンシャイン』、さらには『時をかける少女』『ビューティフル・ドリーマー』、それからケン・グリムウッド著の『リプレイ』あたりにも通ずるものがある。

 事態を打開しようとあたふたする“ホントはいいヤツなんだけれど、ちょっと浅はか”アダム・サンドラーも、コメディには分不相応なほど美人なヒロインという位置付けのケイト・ベッキンセイルも、もはやこの種の映画には欠かせないものとなったクリストファー・ウォーケンの怪演も、ジェームズ・アール・ジョーンズのナレーションも、それぞれ楽しくって妥当でもあるんだけれど、やっぱり見慣れたものばかり。
 要するに、真新しさはなく、予想以上のサムシングもない映画だ。

 それでも、すごく面白いと感じる。理由は、しっかりと作られているからにほかならない。

 軽快にお話は進む。特に序盤は、ズバっと余韻を残さないシーンの切り替えとか、アップテンポのBGMとか、軽い軽い。同録っぽさの強い音声も作品の軽さを助長する。繰り広げられるのは「深く考えない人生」だ。
 また、リモコンが引き起こした怪現象を「クスリとチョコパイの食べ合わせじゃないか?」と訝ったり、ドッキリだと思ってみたり、という部分にも不思議と無理はないし、ジャンクフード、コインのマジック、煩わしいリモコンの山、思い出の音楽……といった各要素を、ちゃんと後に生かしている=責任を持って伏線を処理している。

 たかが家電に搭載された新しい機能に悩まされる消費社会、営利追求の日本企業(松下のパロディであるワツヒタ)、黙々と働き続けるヤンキースの松井など、われわれ日本人にとっては耳の痛い風刺も込められているし、万能であるはずのモーティが手動でドアを開けたり脚立を持ち出したりするアナログっぽさもスパイスになっている。
 さらに、ふんだんに撒き散らされた下ネタから漂い出る、人間って結局は求め合う生き物なんだよ、という真理。

 つまりストーリーや作りの中に、細かなアイディアとか、この映画でいいたかったことを形成・比喩するものたちが、上手に埋め込まれているのだ。確かに「よくある“大切なものに気づく”系コメディ」なんだけれど、その範囲内でできるだけのことをやり遂げた、という印象。このカッチリとした仕上がりに好印象を覚える。

 で、本作がいいたかったこと。それはもちろん「仕事より家庭でしょ」ということなんかじゃなく、人生=人としての命をまっとうするってのは、他人との関わりなくして成立しない、ということ。好き勝手に自分ひとりで生きていくことは、人生と呼べないのだ。

 ポットを追いかけても、中に蜜や宝は入っていない。でもポットの中に入っている、なんていうことのないモノが、実は僕らの人生を味わい深いものにしてくれるのだ。
 原題は『CLICK』。辞書によると「上手くいく」「成功する」という意味も持つらしい。人生を上手く楽しく過ごすためには、カチっとクリックするだけの便利さはかえって邪魔。そうした教訓が、自然と心に染み入ってくる“しっかりと作られた”映画である。

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