ウォンテッド
監督:ティムール・ベクマンベトフ
出演:ジェームズ・マカヴォイ/アンジェリーナ・ジョリー/テレンス・スタンプ/トーマス・クレッチマン/コモン/クリステン・ヘイガー/マーク・ウォーレン/デヴィッド・オハラ/コンスタンチン・ハベンスキー/ダト・バカタゼ/クリス・プラット/ローナ・スコット/モーガン・フリーマン
30点満点中21点=監4/話4/出5/芸4/技4
【暗殺組織にスカウトされた男】
上司に怒鳴られ、友人に恋人を寝取られ、預金はわずか。冴えない顧客管理担当係のウェスリー・ギブソンは、何者かにスーパーで銃撃され、暗殺組織フラタニティのフォックスに救われる。組織を率いるスローンから、ウェスリーの父もフラタニティの一員だったこと、父は裏切り者クロスに殺されたこと、ウェスリーにも暗殺者としての資質が秘められていることを聞かされる。戸惑いながらもウェスリーは、訓練を続けることになるのだった。
(2008年 アメリカ/ドイツ)
【良質かつ可能性も感じさせるエンターテインメント】
いくつかの映画に対して述べた苦言を、本作についても繰り返さざるを得ない。
まずは、セリフに頼りすぎている点。冒頭から続くウェスリーの一人称ナレーションに始まり、フラタニティの目指すところや置かれた状況、フォックスの過去、ウェスリーと父との関係など、重要な部分をセリフによる説明で処理してしまっている。このあたり、もう少し“描写”の意識が欲しかったところだ。
そして、スローモーションの濫用。CGともあいまって暗殺技術のスゴさは十分に感じられるが、もっとリアルタイム・アクションを盛り込んでスピード感や重さ・痛さを創出するのが、この手の映画では鉄則のはず。その配慮が少し欠けている。
が、以上の不満を除けば、かなり優れたエンターテインメント作品として仕上がっているのは間違いない。
起承転結的な展開は、なかなかにスッキリ。
コメディの空気も少しだけ放ちつつ、序盤から飛ばしに飛ばす“起”は、巻き込まれ型ストーリーの開幕として上々の出来。大ジャンプ、超長距離狙撃、カーチェイスなどアクションのアイディアもふんだんで、観る者を一気に惹きつけていく。自分の名前をググったりして、ウェスリーに親近感を抱かせることも忘れない。
ウェスリーの成長を描く“承”の部分も、暗殺技術のシビアさとコミカルな部分をミックスさせて軽快、機織工場という設定も無駄にしないで妥当に進んでいく。
そして、ウェスリーが暗殺者として活躍を始めるとともにお話が意外な急カーブを描く“転”、怒涛の“結”と、まさにジェットコースター。
全体としてやや性急、あまりに都合よく、あまりに奇想天外であるとはいえるが、“起”での出来事を“転”にもちゃんと生かすなど立体的な広がりを見せるし、少年マンガの「潜在能力の覚醒」モノっぽい微笑ましさと安心感と意外性とワクワクに満ちていて、実に楽しい。
ユニークなのは、ある種の“潜ませ”があること。跳ね橋を渡ることによって「もはや、これまでの生活には引き返せない」ことを示したり、どういうわけか、オフィスにひとり残るウェスリーやフォックスが立てる4本の指といった『アパートの鍵貸します』へのオマージュらしき場面もあったり(そういえば『アパート~』にも「行き詰まった主人公と銃」という結が用意されていたっけ)。
こういう、ちょっとした部分が、映画の格を1ランク高める。
見せかたのセンスも良質。パニックの視覚化や曲がる弾道など、本作のウリである意欲的な絵作りはもちろん、慌てるウェスリーがクスリをにぎり損ねたり、「Last Chance」の看板を捉えたり、細かなノイズを拾い上げる音響や一人称視点で“その場感”を作ったりして、ともすれば「んなこと、あり得ないじゃん」な話に、説得力というか、奇想天外な物語へ抵抗なく入っていけるための気配りを付加することも忘れない。
電車のガタゴトとシンクロするサウンドなどダニー・エルフマンによる音楽も、画面への乗っけかたを含めて良質だ。
喝采を贈りたいのが、主演3人の存在感。
ジェームズ・マカヴォイは、『ナルニア国物語』のタムナスさんとも『ラストキング・オブ・スコットランド』のニコラスとも異なり、ダメダメな負け組男から悲しみと苦悩を抱えた暗殺者へ、その変貌を無理なく演じていて出色。モーガン・フリーマンの“渋み”は、人のいい爺さんよりこういう闇のある人物でさらに光る。
で、アンジェリーナ・ジョリー。いやもう最初の登場カット、あの人間離れした顔で突如として現れて一気にウェスリーの人生を波乱へと叩き込むところを観たら、もうこの役は彼女にしかできないと納得できる。この人になら撃たれて死んでも仕方ないって思ったもの。
ま、あくまで「んなこと、あり得ないじゃん」であり、前述の通り説明とCGとスローに頼った「観客に食傷をもたらしている、近年のハリウッド製アクション」でもあって、正直、是非と好みはわかれるところだではあるだろう。
個人的には、是。だって実際、面白かったし、素直によくできているなぁと思ったんだもん。
本作のテーマが「どんな価値観のもとに、何者であろうとするのか」にあるのと同様に、本作そのものもまた、観る者の価値観を問う映画だといえるのかも知れない。
それに、この「人、死にすぎ」の方向をさらに推し進めればカルトの雄にもなれるだろうし、逆にコミカルな部分とワクワクとを増強すれば超一級のエンターテイナーにもなりうる、そんな、ベクマンベトフ監督の可能性を感じさせる1本でもあるだろう。
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