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2008/09/27

アポカリプト

監督:メル・ギブソン
出演:ルディ・ヤングブラッド/ダリア・エルナンデス/ジョナサン・ブリューワー/モーリス・バードイエローヘッド/ラウール・トゥルヒロ/ヘラルド・タラセナ/ロドルフォ・パラシオス/マリア・イザベル・ディアス/カルロス・エミリオ・バエス

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3

【捕らえられた戦士、その戦い】
 マヤ文明の時代、ジャングルの村。森で狩猟をして暮らすジャガー・パウらは、漁村から逃げてきた人々と遭遇する。「襲われた。“新しい始まり”を探す」といって森の奥へ消える漁民たち。翌朝、ジャガー・パウらの村もゼロ・ウルフが率いる部族に襲撃される。妻と息子を竪穴へ避難させたジャガー・パウだったが、家は焼かれ、村人たちは捕らえられてしまう。連れて行かれた先で、ジャガー・パウを待ち受けていた運命とは……。
(2006年 アメリカ)

【アクションとサスペンスの向こうに見えるもの】
 メル・ギブソンは前作『パッション』から一転、思った以上にストレートなエンターテインメント作品、あるいはチェイス&バトルのサスペンスものとして今作を送り出してきた。

 内容はシンプル。セリフは全編マヤ語なのだが、字幕なしでもほぼ理解できるほどだ。これが正解。余分な要素の少なさが、アクションの迫力とスピード感、全体的なテンポのよさを生んでいる。オープニングでの“狩り”の場面をクライマックスでリピートさせるという構成も、ありがちな手法だが本作にワクワク感を与えている。

 撮りかたは、手堅いながらも意欲的。ジャガー・パウの眼前で落下する滝を1カットで捉えたり、切り落とされた首の一人称視点なんていう凄まじいショットがあったり、「ただ撮ってます」の一歩上をいく、意志のある絵作りを見せてくれる。
 音楽もドンどこドンどことスリルを盛り上げる。マヤ文明の村や都市をそっくり再現してしまった美術はとてつもないスケール、人物たちのメイキャップは精緻で、僕らを16世紀の昔へと誘う。焦燥感たっぷり、かつプリミティブな感情表現で押し通す役者たちの演技にも力が入っている。
 つまりは、さまざまな要素がハイレベルで絡み合った上々のアクション作品となっているわけだ。

 が、ストレートといっても、それは表面的な顔、メル・ギブソンはしっかりと主張を詰め込む。
 1つは、恐怖について。追われること、殺られること、平和な暮らしを脅かされることは確かに恐ろしいが、と同時に、あるいはそれ以上に本作では「見慣れぬもの」「ありうべからざるもの」「姿なく、存在も不確かなまま迫り来るもの」が恐怖の源であると示唆する。
 もうね、底なし沼なんか久々に映画で見ましたよ(この後『インディ・ジョーンズ』で観ることになるんだけど)。思えば子どもの頃(いまでも)、何が怖いって、この底なし沼ほど怖いものはなかった。「底がないって何やねん! ありえへん!」って。
 いまじゃ子ども向け作品でも底なし沼って登場しないんだろうけれど、それは世界から未開の地がなくなり、恐怖の対象が“未知”から“システムの齟齬”や“社会的・経済的な破滅”など、人工的なモノ・状況へとシフトしたからかも知れない。
 このあたり、本作のもう1つのテーマとリンクする。

 本作では狩る側と狩られる側のヴィジュアル的区別など、ないに等しい。それがラストで一気に“イコール”となり、冒頭で述べられる「文明が支配される原因は内部からの崩壊」という一節へと収束していく。
 ここへきて、なぜ本作がマヤ語で作られなければならなかったのかもハッキリする。ハリウッド作品では常套である「いつの時代、どこの人であっても英語で喋っている」という作りは、本作では採れないのである。

 失われた未知、駆逐されかけたマヤ語。それ=大航海時代と帝国主義の幕開けは、キリスト教の布教とか金銀財宝目当てといった欲望に起因するのだろうけれど、実はもっと根源的なところに「恐怖を克服する好奇心」というものがあったのではないか。
 ジャガー・パウは恐怖に打ち克って反撃に出るが、皮肉なことに全地球的レベルで見ると、その「恐怖の克服」は「海の向こうには何があるのか?」という価値観に変化し、それこそが、神と人とがもっと近くにいた時代を失わせ、あまたの平和な暮らしを破壊することになったわけである。

 そう思うと、本作は単に「1つの文明が崩壊へ至った、その序章」を描いた歴史モノにとどまらず、もちろんただのアクションものでもないということがわかる。
 いまだ人類どうし内部抗争を続け、恐怖の克服と好奇心の名のもとに神の領域を侵犯し続けるわれわれの、行く先はどこか。
 これは未来を暗示するフィルムであり、ひょっとしたらインベーダー映画へとつながるプロローグでもあるのかも知れない。

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