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2008/09/13

ハンコック

監督:ピーター・バーグ
出演:ウィル・スミス/シャーリーズ・セロン/ジェイソン・ベイトマン/ジェイ・ヘッド/エディ・マーサン/デヴィッド・マッテイ/トリックス・フィッテン/トーマス・レノン/ジョニー・ガレッキ/マイケル・マン/ダレル・フォスター/グレッグ・ダニエル/ナンシー・グレース

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【ヒーローは酔いどれで嫌われ者】
 空を飛び、クルマを軽々と持ち上げ、不死身の身体を持つ男、ジョン・ハンコック。そのパワーで悪党を懲らしめ、困っている人を助けるが、手加減を知らないためLAはメチャメチャ、みんなの嫌われ者だ。彼に助けられた広告マンのレイはハンコックを自宅に招待するが、レイの妻メアリーは迷惑顔。「君がいなくなれば犯罪が増え、君のありがたみがわかる」というレイのアイディアで、ハンコックは刑務所に入ることになるのだが……。
(2008年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【愛は世界を救う】
 各所から絶賛ばかり聞こえてきた『ダークナイト』とは対照的に、さほど評判の芳しくなかった本作。いわく「前半は面白いけれど後半が……」。
 おいおいおまいらナニ観てんだよ。むしろ、この後半のために前半があったような映画だろうが。

 その前半部、嫌われ者の暴れん坊が広告マンの戦略によってスーパーヒーローへと変貌を遂げるさまは、ある意味で予定調和なのだが、確かに痛快、問答無用に面白い。
 ハチャメチャな暴れっぷり、スーパーヒーローのコスチュームにまつわるユーモア、『X-メン』の揶揄や『スーパーマン』をパロった音楽……。テンポのいいコメディとして楽しく成立しているといえるだろう。

 ただ、丹念に織り込まれた“非コメディ”の部分も見落とせない。
 たとえばハンコックは「アスホール=ass-hole」という言葉に敏感に反応するわけだが、彼自身もまた口汚く「お前の頭を、そっちの奴のケツの穴にねじ込むぞ」と相手を罵る。自業自得というか、だから君は「クソ野郎」と蔑まれるんだよといいたくなる、アイロニカルなハンコックの言動設定。
 そんなハンコックの傍若無人さの裏側には、実は彼が抱き続けている孤独がある。彼が酒びたりである理由も、誰よりも“いまの自分ではない何か”を求めていることも、過去がないゆえの寂しさも感じさせてくれる。
 とりわけ印象的なのは、丘の上にあるハンコックの家の前、ひっそりと置かれたドラム・セット(上空から一瞬だけうつったはず)。セッションの相手がいるわけでもない彼が、メロディを奏でず、ただ叩き続けるだけの楽器とともに暮らしている、その侘しさ。

 ついで、グリーンピースの存在や、広告マンのレイが対峙する企業の「営利目的」という倫理などを持ち出し、ドキュメンタリー・タッチの手法を取り入れ、You Tubeも登場させて、この物語と人物たちに実在感を与える配慮もなされる。
 つまり、すでに前半部からして「誰にも理解されないところで世界を救うという行為」について身近なものとして考えさせる、コメディらしからぬ要素に満ちた内容となっているわけだ。

 そして問題の、意外な展開を見せる後半部。
 ハンコックにまつわる秘密が“告白”=セリフによって明らかにされるのはもったいない(たとえば、手のひらを返したようにワーキャーとハンコックを取り囲むファン、それを避けようと図書館か新聞社の資料室へと逃げ込む彼、そこで古い記事から思いもよらなかったものを見つけ……、みたいな流れがあれば作品の“格”も少し上がっただろう)が、反面、一気呵成にクライマックスへとなだれ込むスピード感は生まれている。

 そのクライマックスでは、「誰にも理解されないところで世界を救うという行為」の意義について、鮮やかに描かれていく。
 すなわち、愛。大切に想う人への慈しみ。世界中を“ハート”で包むことによってもたらされる平和。
 理解されないなんてことはないのだ。独りぼっちなんかじゃないのだ。何かを信じて進めば、きっと誰かが見ていてくれる。たとえ理解されていないと感じたとしても、君自身が相手を愛すればいい。そもそも愛って、そういうものなのだ。報われることなど期待せず、ただ注ぎ込むものなのだ。そんな愛こそが、やがては世界を救うのだ。
 月明かりから、そうした価値観が一気に噴き出す。

 おそらくハンコックは、メアリーへの愛だけでなく、彼に無償の信頼を寄せてくれるレイの態度からも「自分に出来ること」を学び取ったはずだが、もうひとり、アーロンも大きな存在になったことだろう。
 ハンコックがメアリーのミートボールを「美味い」と褒めたとき、アーロンは「ありがとう」と答える。アーロンが味つけを手伝ったからとも考えられるが、ここはむしろ「大好きな人(ママ)に、幸せになれる言葉をかけてくれたこと」に対する“ありがとう”だと思いたい。
 その“ありがとう”の骨格を成すのは、もちろん、愛である。

 そう、後半部で大々的に描かれる「愛は世界を救う」というメッセージへ向けて、細かな描写と伏線とを積み重ねた前半部がある、そんな作品のように感じられるのだ。

 メッセージを伝えるツールとして映画を機能させ、しっかり1本撮り切った演出にも拍手を送りたい。さすがは『キングダム/見えざる敵』のピーター・バーグ。
 特に、コンマ数秒ほど早めのタイミングで次のシーンへと移行する編集でテンポのよさを生んだこと、店の警報がそのままハンコック自身のアラームになるといった音の使いかたの上手さがいい。
 キャストの好演はいわずもがな。自由気ままと苦悩とのギャップを自在に行き来したウィル・スミス、いくつもの表情を見せてくれるシャーリーズ・セロン、誠実なジェイソン・ベイトマン、ピュアなジェイ・ヘッド君と、いずれも本作に欠かせないピースだ。

 そんなわけで、嫌われ者のヒーローという設定の特異さだけでなく、ある意味おバカなエンターテインメントであると同時に全人類的なテーマについても考えさせるという特異さをも秘めた、稀有な作品。
 広告マンのレイが“いちいち正しい”存在として、また世界を平和へと導くキーマンとして描かれているように、実在の広告代理店(なにしろ社会を支配しているのは、この連中と考えることだってできるわけだから)が世界平和へ向けて正しい歩みを見せてくれることを期待したい、そんな思いを抱かせる映画でもある。

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