パンチドランク・ラブ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アダム・サンドラー/エミリー・ワトソン/ルイス・ガスマン/フィリップ・シーモア・ホフマン/メアリー・リン・ライスカブ/ロバート・スミゲル
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【イタい恋】
7人の口やかましい姉を持つ男、バリー・イーガン。トイレ用吸引棒の販売業を立ち上げたが、ちょっとしたことにイライラし、エッチな電話サービスを利用すれば正体不明の連中に脅され、マイレージを稼ぐためにプリンを買い漁る日々。そんな彼が、姉エリザベスの同僚リナに恋をする。どうやら彼女も自分に気がありそう。なんにも持っていない男の疾走が始まる。
(2002年 アメリカ)
【恋はイタい】
上記あらすじは、いつもより1行少なめ。つまり「ものすごーくシンプルなお話」ということ。それが、いい。
シンプルといっても、細かく細かく、いろんなものが詰め込まれている。特に、わびしさ一杯の工業団地の風景、弟にフケ止めシャンプーの効果を尋ねる姉、もう何の商売人だかわかんないほど胡散臭いフィリップ・シーモア・ホフマンのディーン・トランベルなど、“ちょっとしたリアリティ”の配しかたが見事。
また、音にしろ出来事にしろ人物にしろ、さまざまな「登場」シーンが予期せぬものとして描かれて、人生における突発性・偶発性を印象づける。
要するに恋って、シンプルで、わびしくって、いろんな干渉を受けて、胡散臭くって、突発的・偶発的で、イタくって、支離滅裂なものなのだ。
ひょっとすると世の女性の大半は、バリーに恋心なんて抱かないかも知れない。自分勝手で乱暴で、「プリンを買い占めて一生タダで飛行機に乗る」なんていうバカバカしいアイディアに固執もする。ヘルシー・チョイスを別の目的でチョイスしてしまう。恋したら他のものなんかまるで見えなくなってしまう。
けれど男なんて、みんなバリー・イーガンなのだ。パンチドランカーなのだ。どうしようもない愚か者なのだ。
そして恋というものは、ここで描かれているように、いつどこであろうとふたりっきりの世界を瞬時に作り出し、ロマンティックなシルエットで男と女を浮かび上がらせる魔術なのだ。
そういう、恋する男と恋そのものの真理を、ベタっと描いた映画。
劇中で使われる音楽は『ポパイ』(ロバート・アルトマン監督)でオリーブが歌った「He Needs Me」。
たぶん女性は「私は求められている」と信じたがり、男はその思いに応えようと突っ走って、イタい恋が出来上がるのである。
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