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2008/10/14

マグノリア

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ジュリアン・ムーア/ウィリアム・H・メイシー/ジョン・C・ライリー/トム・クルーズ/フィリップ・ベイカー・ホール/フィリップ・シーモア・ホフマン/ジェイソン・ロバーズ/アルフレッド・モリナ/メローラ・ウォルターズ/マイケル・ボーウェン/リッキー・ジェイ/ジェレミー・ブラックマン/メリンダ・ディロン/エイプリル・グレース/ルイス・ガスマン

30点満点中21点=監4/話4/出5/芸4/技4

【ある雨の一日】
 伴侶を求める警官ジム、彼に訪問される女性クローディア、彼女の父でクイズ番組司会者のジミー、番組に出演する天才少年スタンリーと父リック、かつて天才といわれた男ドニー、インタビュアーの取材を受ける口説きのカリスマことフランク、死の床にある老人アール・パートリッジ、うろたえる妻のリンダ、アールを看護するフィル。それぞれ心に涙の種を抱えた人たちが過ごす、ある雨の一日。彼らと彼女たちの上に降り注ぐのは……。
(1999年 アメリカ)

【密度の高さが、眼前に迫る】
 3時間が、そう長く感じられない。映画を構成するパーツ1つ1つに密度の高さがあるからだろう。

 たとえばカメラは、解像度が高く、陰影とコントラストのある絵を作り出す。大きく動くカットとじっくり見せるカットが変幻自在。あるときは人を追いかけ、またあるときはゆっくりと寄っていく。次に何が起こるのか、緊張を強いる構図の連続だ。

 アップも多い。これは人物の内面へと迫る試みであると同時に、役者への信頼感の表れだろう。
 その信頼に対し、真っ直ぐに取り乱すジュリアン・ムーア、テンションの振幅を鮮やかに演じるトム・クルーズ、懸命で沈着のフィリップ・シーモア・ホフマン、焦燥のメローラ・ウォルターズ、そして内面に沈殿した想いを淡々と表に出すジェレミー・ブラックマン君らが、しっかりと応える。
 意外と表層的で、誰も救われるわけではないストーリーを重厚かつ叙情的にしてみせたのは、出演陣の功績だ。

 また「慌てて落としてしまうカーテン」を二度も印象的な場面につなげてみせるなど構成的にも見事
 シンプルで、どちらかといえば汚いセリフが繰り返される。人の胸のうちにたまった澱(おり)の存在と、それを吐き出して自己嫌悪に陥る痛々しい行為を繰り返してしまう人の愚かさが、強烈だ。
 音楽は、各場面の意味をクッキリと浮かび上がらせ、シーンの切り替えも助け、ドキドキとさせるものばかり。

 テーマ曲として扱われる『Save Me』で、エイミー・マンは歌う。
「あなたが賢くなるまで、それは止まらない」。
 やはり人は、何度も何度も失敗を繰り返し、耐え難い状況へと自らを追い込む、愚かな存在なのだ。過去を捨てたと思っても、過去は追ってくる。過去にとらわれず前へ進め。それがわかっていてもなお人は、対処法のわからない過去に苦しめられる。人が賢くなるなんてことはない。
 でも、歌は続く。「あきらめてはいけない」と。
 本作で救われなかった人たちが今後どうなるのかわからないが、少なくとも警官ジムがいうように、自らを貶めるような言葉を吐かないと誓うだけでも、過去と対峙する力になることだろう。
 なんでも起こり得る。そう達観したうえで、じゃあ何かを起こしてみようと自分と周囲の関係を見直し、行動に出ることも、またよしだ。

 と、密度感を武器にしてテーマや“人のありよう”をギュっと前面へ押し出してくるタイプの映画。同じく完成度の高さで全身を包み込んでくれた、大好きな『クラッシュ』は、間違いなく本作のフォロワーだろう。そういう意味でも、この『マグノリア』には感謝したい。

 マグノリアとは「木蓮」。なんでも1億年近く前から存在し、地球最古とされる花木だそうだ。交配によってさまざまな種類が作られ、大きな花びらがボトボトと落ちることが特徴という。
 他者との交わりからさまざまな想いを抱き、少しずつ変化するが、でも基本的な性質は変わらない。そうした“人”が主役で、あの衝撃的なクライマックスを持つ本作に、なんとふさわしいタイトルだろうか。

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