天然コケッコー
監督:山下敦弘
出演:夏帆/岡田将生/柳英里沙/藤村聖子/森下翔梧/本間るい/宮澤砂耶/斉藤暁/廣末哲万/黒田大輔/大内まり/夏川結衣/佐藤浩市
30点満点中17点=監4/話4/出4/芸3/技2
【これが私たち】
周りは山と海と田畑、小学校と中学校は校舎が同じ、全校生徒は6人。中学2年の右田そよが暮らす田舎町に、東京から同い年の大沢広海が引っ越してくる。広海の母はこの町の出身、どうやら訳ありで戻ってきたらしく、そよの父とも旧知の間柄らしいが……。ひまわり咲く夏、秋祭りの夜、冷え込む年の瀬、バレンタイン・デー、進級、修学旅行、そしてまた桜の季節。7人の生徒たちと、その周囲の大人たちの四季が紡がれていく。
(2007年 日本)
【そのまんま、の映画】
人間は、前へ進んで行くしかないのである。後戻りすることも、立ち止まることも許されないんである。だからこそ、生きていくことって難しくもあり、面白くもある。
そんな、ゆっくりと、でも確実に流れていく時間の中で、二度と訪れない季節を自然に生きる中学生と小学生(と、その親たち)の様子を、ほぼ“そのまんま”捉える映画。
そのまんま、といっても、『リンダリンダリンダ』と同様、ちゃんと隠された意志がある。
たとえば、見守り目線。必要以上に寄ることなく、どちらかというと離れた位置からそよちゃんと大沢君をうつすことに徹する。しかも、ややアンダー気味。なんとなく、触れてはならないものにジっと目を凝らす、という鑑賞姿勢を強いられる作りだ(もう少し季節感をしっかりとすくい取る撮影なら、さらによかったんだけれど。自然光を生かすのはいいとして、春先も夏も同じような色合いってのはいただけない)。
また、普通ならイライラしてしまうほどのゆったり感が、この子たちに感情移入するための“間”として機能する。
それと、構成・シナリオ。
なにげない一瞬が後になって繰り返されて、その“なにげない一瞬”こそが日々を、人間というものを創っているのだということが、よくわかる。
そうとは気づかずに過ごした時間や築いた関係が、かけがえのない宝になるということを、切なく伝えてくれる。
まさに作中のセリフやキャッチ・コピーにあるように「もうすぐ消えてなくなるかもしれんと思やあ、ささいなことが急に輝いて見えてきてしまう」ことが、心に痛い。
別に廃校や建て替えだけが「消えてなくなる」原因じゃない。人間は前へ進んで行くごとに、道のりに何かを刻んで残し、でもその大半を忘れてしまうものなのだ。
玄関の戸を開けっ放しで出かける右田家。その価値観は僕らの住むこの国では、ひょっとするとやがて失われるものなのかも知れない。
そよちゃんは、大沢君にもらったダブダブのコートに浮かれる。自分が何者で、どんなところにどんな風に収まるのかをまだわかっていないのだ。でも、いつの間にか立派に着こなしちゃっている。成長や変化を止めることなんてできない。
だからこそせめて、もう過ぎてしまった“あのとき”が永遠に輝いていますようにと、祈らざるを得ない。そんな映画である。
というわけで、夏帆ちゃんを俺にくれ。
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