夜のピクニック
監督:長澤雅彦
出演:多部未華子/石田卓也/郭智博/西原亜希/加藤ローサ/貫地谷しほり/松田まどか/柄本佑/高部あい/池松壮亮/嶋田久作/田山涼成/南果歩
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【夜空の下、歩き続ける】
北高の恒例行事「鍛錬歩行祭」がスタートした。一昼夜かけて80kmの道のりを歩く、白いジャージ姿の全校生徒たち。何かを胸に抱えたような甲田貴子、その視線の先にいるのは西脇融、西脇を気遣う戸田忍、貴子を見守る遊佐美和子。にぎやかな後藤梨香や梶谷千秋、落ち込んだかと思えば弾ける高見光一郎、榊杏奈からの手紙、幽霊のような少年……。それぞれの想いとともに刻まれる一歩一歩、その果てに待っているのは、何だろうか?
(2006年 日本)
【作りは甘いが、その中に大切なことがタップリと】
原作は未読。ただ、丁寧ではあるがフツーに撮られ、ワクワクできるところのない仕上がりを見る限り、映画化というより“映像化”にとどまっているように思える。
欠けているのは、広がり感。登場人物たちの近くでカメラをまわして物語を身近なものにしようとした意図はわかるが、反面、18歳の若者を包み込む世界の広さや季節感・空気感を捉えにくい絵作りだ。
光の使いかたや合成などは頑張っていると思うし、多部未華子と石田卓也が放つ等身大の瑞々しさ、加藤ローサと貫地谷しほりの天才性、松田まどかの可愛さにも目を見張るものはあるが、全体に小スケールで、テレビの2時間スペシャルくらいのグレード、選曲や音楽の乗っけかたも決定的に悪い。
正直、映画としては褒められたデキじゃない。
それでも涙してしまうのは、人生の真理のいくつかと、“あの頃”の甘酸っぱさが散らされているせいだろう。
クラブごとに集まって準備体操する光景や、こうしたイベントを恋と結びつけてスペシャルな日にしてしまおうと考える若者たち、そのリアリティ。
影の演出家や高見のような存在が社会に彩りと潤いを与え、デリカシーのない人間の存在によって物事は動き始め、デリカシーのなさまで計算に入れてシナリオを書く人もいたりして。
そして、ご丁寧にもグルグルと回りながら、結局は元の場所に戻り、そこがゴールでもあり、スタートでもあるという事実……。
夜みんなで歩く、ただそれだけなのに、どうして特別なんだろう。その疑問に対する答えは、君たちにはすぐに出せない。そもそも「出す」ものですらない。たぶん何十年もたって、ふと「気づく」のだ。
考えかたによっては拷問とも思える一昼夜を、嬉々として乗り切ってしまう君たち。心のどこかで、その一瞬が二度と来ないものであることを理解していて、その一瞬が確かに自分自身を作っていくものだとわかっていて、その一瞬が将来の自分を支えてくれる可能性を察して、君たちは歩き続け、時間と経験を共有しようとするのだ。
と、オトナ目線で観てしまう自分が恨めしくなる。
でも、体育祭最後の出し物のあとに巻き起こった三本締め、そこで友人が浮かべた満面の笑みを20年以上経ったいまでもハッキリと覚えていて、いま僕がここにいる、それは絶対に確かなことだ。
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