隠し砦の三悪人
監督:黒澤明
出演:三船敏郎/千秋実/藤原釜足/上原美佐/藤田進/志村喬/三好栄子/樋口年子
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【敵陣突破に駆ける、侍、姫、そして強欲な百姓たち】
立身出世を夢見て、秋月vs山名の戦に加わった早川の国の百姓、太平と又七。秋月が敗れ、ほうほうの体で逃げ出した彼らが山奥で見つけたのは、薪の中に隠された大量の金だった。これぞ秋月家再興のための軍資金。色めくふたりだったが、秋月家の武将・真壁六郎太と雪姫に出会い、その金を運ぶ役目を押し付けられる。狙いは、警戒の薄い山名の領内を抜けて早川まで辿り着くこと。二百貫もの金を背負って逃げる彼らに、追っ手が迫る。
(1958年 日本)
【タネに満ちた作品】
画面いっぱいにヒトやモノを配して奥行きを感じさせ、群衆の中でも太平と又七を浮かび上がらせる画面構成は、なかなかの迫力。砂っぽさや汗臭さや温度感も漂い、背景は岩だらけの山。これらのシーンは確かに『スター・ウォーズ』へと続くものだ。
三船敏郎の“のっし”とした立ち姿、凛とした上原美佐、そして千秋実と藤原釜足のイジましさには、武将や姫や百姓の“らしき気配”に加えてどこか無国籍感も漂い、お話に味わいを与える。
と、見た目の出来は上々だが、やや間延びしているように感じられるのも確か。3秒ですむところを5秒撮っているようなまだるっこしさがあるし、太平と又七が六郎太と出会うまでの序盤ももう少し整理できたはず。
全体にあとふたつみっつ波乱の要素を盛り込み、かつ、クライマックスにも派手さを付与してワクワク感をグレードアップさせることだってできただろう。
ま、それはハデハデ・アクションを見慣れた現代人としての感想であるわけだが、すなわち本作が「もっと面白く出来る素地」を持っているということだ。設定、キャラクター、展開、ユーモアは十分に現在でも通用するものであり、それを生かしつつ「ここをこうしたら」「最新の技術でより迫力あるアクションを実現すれば」「この役はあの人で」などと考えたくなる。
個人的には、冒頭とラスト(ボロボロの太平と又七)をもっとハッキリ対照化させ、男勝りとして育てられながら城外へ出ることの少なかった雪姫のキャラクターを掘り下げ、田所兵衛の見せ場も増やし、カット数とアップを増やしてテンポを上げ、クライマックスでは剣戟も爆破もふんだんに……というのがザっと思いつくところ。
そうやってアイディアをふくらませてリメイクしたくなるタネに満ちた作品だといえるだろう(実際のリメイク版の評判はあまり芳しくないようだけれど)。
特に心が沸き立ったのは、火祭り。ほとんど前触れもなく、突如として現れるタネ。あの、いきなりの高揚感というか「うわっ、なんで急にこんなところで火祭りやねん」という戸惑い、炎そのものが持つパワー、前後の展開などがあいまって、不思議な猥雑さとコーフンを放つ。
うむ、思えば後のアクション作品にもこの手の“脈略のない突如のコーフン”シーンは結構あって、それが、対決以外の盛り上がり、追われているのに踊るなよ的な焦り、でも炎信仰と踊りって人間の根源的な欲求かもという考察を呼び、アクセントとして機能しているようにも思う。
さまざまな意味で、強烈なタネの仕込まれた映画である。
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