地球が静止する日
監督:スコット・デリクソン
出演:キアヌ・リーヴス/ジェニファー・コネリー/ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス/ジョン・クリーズ/ジョン・ハム/カイル・チャンドラー/ロバート・ネッパー/ジェームズ・ホン/ジョン・ロスマン/ロジャー・R・クロス/キャシー・ベイツ
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4
【宇宙よりの使者、彼の目的とは?】
政府から緊急の出頭要請を受けた宇宙微生物学者のヘレン。巨大な飛来物が宇宙から接近中、間もなく地球の軌道と交差するというのだ。が、衝突の直前に迎撃ミサイルなど防衛網は停止、隕石も速度を落とし、巨大な光る球体となってマンハッタンに着地する。球体の中から現れたのは、地球人そっくりの容姿を持つ人物。クラトゥと名乗った彼は、米政府代表のジャクソン国務長官らに対し「地球を救いに来た」と語るのだが……。
(2008年 アメリカ)
★ネタバレを含みます★
【映画としては二流だが、興味深い】
たぶん酷評されるのだろう。少なくとも「iTunes StoreでEXILEとか青山テルマとかをダウンロードして聴いている人たち」には、ちっとも面白くない映画だと思う。要するに、流行ものエンタメを消費するタイプ、年間に数本しか映画を観ないという人には、これよりも、どうぞ『インディペンデンス・デイ』あたりをお楽しみください、といいたい。
宣伝通りの娯楽作じゃありませんから。
いや、それ以外の人に対しても勧められるわけじゃない。意外とB級クサイのだ。
たとえば緊急異常事態発生時の米政府の対処法、世界的混乱の見せかたなどは、かなりいい加減で強引で、ショボさすらある。軍隊・軍人・警官・科学者はドバドバ出て来るけれど、意味のある行動をしている人や印象に残る人物は少ない。スケール感も科学的根拠も欠き、ディテールへの切り込みも物足りない。『トランスフォーマー』や『クローバーフィールド』、あるいは『24』などのほうが、よっぽどリアルで迫力もある。
そもそもクラトゥ、ヘレン、その息子ジェイコブという3人で進む場面が多め、あとは国務長官が重要なくらいで、地球の危機だというのにやけにコンパクト、パーソナル色の強いお話。『世にも奇妙な物語』の1エピソードや星新一の短編=20分くらいのネタを100分で見せるような作りだ。
20分を100分に引き伸ばすにあたっての演出的な上手さ、「どうなるの?」と興味を惹く不思議な雰囲気作りの巧さはある。携帯電話のくだり、クラトゥの神秘的な能力の描写、球体やロボットの造形など、面白い部分も多い。
キャストも良質だろう。無機質なキアヌ・リーヴスは役にハマり、ジェニファー・コネリーは相変わらずすこぶる級の美人、ジェイデン君も可愛く成長した。『24』のカーティスでおなじみロジャー・R・クロスは頼もしいし、ロバート・ネッパーはティーバッグそのまんまに暴れるし、というお楽しみもある。
が、やはり100分にしたんだから、あれもこれも入れなきゃならんだろうと、不足の目立つ内容だ。
何が不足かといえば、これはもう“情”である。
クラトゥの心境変化、連絡役の中国人の言葉、そして「人は変われる(変わらなければならない)」というテーマ、それらに説得力を持たせようと思えば、もっとヘレンとジェイコブの関係を描き込み、バッハだけじゃなくルノワールとかミケランジェロとかガウディなども盛り込み、ふと接する市井の人々の温かさも拾い上げないとダメだろう。
いっそ片田舎の造り酒屋を舞台にして「一所懸命に自然と共生し、文化を守ろうとする人たち」を中心に据えるとか、『世界最速のインディアン』風ロード・ムービーや『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』みたいにしちゃったほうが、“メッセージのある娯楽作”としての成立度は上がったんじゃないだろうか。
つまり、僕らは愚かだけれど、それを乗り越える力を持っている、持たなければいけないと、観客が自然と納得できるような話にしろってこと。
そのあたりの“情”をザックリとカットして「泣いて抱き合ったら救われた」へと力ずくで持っていった点が、大いに不満。クラトゥが地球に来た理由の種明かしだって、視覚的・映画的な鮮やかさとともに描写すべきところをセリフで済ませちゃったのも不満。『エミリー・ローズ』のような情緒ある作品を撮った人なのに。
と、映画としての“欠け”が目立つのだが、ある環(わ)を感じられて興味深い作品ではある。
オリジナルが作られたのは50年以上も前。以後、数々のSFムービー、宇宙人来襲モノ、終末モノ、人類浄化モノが作られてきた。『2001年宇宙の旅』や『インディペンデンス・デイ』、『E.T.』や『未知との遭遇』や『宇宙戦争』、『アルマゲドン』に『ディープ・インパクト』、『イデオン』に『エヴァンゲリオン』……。
それらによって僕らが植え付けられたのは、宇宙人は戦争を仕掛けに来るもんなんだという価値観、逆に「ピュアな心で願えば、僕らは孤独じゃないと立証されるはず」というささやかな願い、あるいは人類は何だってできちゃうという傲慢さ、結局は何もできないよという警告の数々だ。
で、50年後、上記諸作品を想起させるような場面を挟みつつ、お前ら人類は夢物語や不遜な思想や諦観に囚われて進歩してないじゃん、むしろ社会環境は悪化してるじゃん、と、のっぴきならない現状を突きつける『地球が静止する日』へと戻ってきた。
その皮肉たっぷりの環が、実に面白い。
いや、面白がってちゃいけない。「変わっていない」という事実に恐怖を覚えなければならない。
そういう意味で、この映画を面白がれない人はもちろん、ヘンに面白がってしまう人にも“あんたら問題あり”と、警鐘を鳴らす作品なのかも知れない。
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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2008/12/20 20:53