WALL・E/ウォーリー
監督:アンドリュー・スタントン
声の出演:ベン・バート/エリサ・ナイト/ジェフ・ガーリン/ジョン・ラッツェンバーガー/キャシー・ナジミー/シガーニー・ウィーヴァー/マッキントーク/フレッド・ウィラード(出演)
30点満点中21点=監4/話4/出4/芸5/技4
【ひとりぼっちのお掃除ロボット】
大企業BNLの先導で、人類はアクシオム号に乗って宇宙へ飛び去った。それから700年、廃墟と砂とスクラップに覆われた地球で黙々と働き続けるのは、お掃除ロボットのウォーリーただ一体。彼の夢は、いつか誰かと手をつなぐこと。ある日やって来た宇宙船から、白いロボット・イヴが降り立つ。拾い集めた宝物を嬉々としてイヴに差し出すウォーリー。だが、あるものを見せたことで、ウォーリーとイヴと人類の未来は大きく動き始める。
(2008年 アメリカ)
★ややネタバレを含みます★
【ある意味、集大成】
新作のたびに「これがCGアニメの最高峰」と感じさせるピクサー。今回もまた、とてつもないものを魅せてくれる。
まずは壮大な宇宙空間が、一瞬にして観るものを作品内へ引き込む。それに続くのは、衛星画像を思わせる大俯瞰、ゴミ・ブロックのビル群。凄まじいまでの世界。
以後も、砂埃、熱、風、光、炎、かすみ、遠近感、サビと汚れ、雨、堅さと柔らかさ、スピード、重量、空間の広がり、スターダスト、各種メタリックの質感……と、ありとあらゆるものをスクリーン上でリアルに表現する。圧倒的な質量だ。
とりわけ素晴らしいのが“ちょっとした動き”の巧さ。急停止したときの揺れ、ガクンという弾みなど、慣性や摩擦といった細かな物理法則まで再現している点に感心させられる。
デザイン・ワークスも極上だ。60~70年代に考え出された未来の忠実なヴィジュアル化、説得力抜群のアクシオム号外観&内部。「ガイドライン上をロボットや装置が動く」という、妙にアナクロな科学技術が微笑ましくってステキ。一見して同企業のシリーズ製品だとわかるロボットたちも愛嬌たっぷり。
中でも、やはり主人公たるウォーリーとイヴが魅力的だ。
焦る、落ち込む、喜ぶ、無茶をする、考える……。ウォーリーが見せる感情表現の豊かさたるや。ゆっくりとイヴににじり寄るところは明らかにチャップリンを意識したものだろうし、首や視線は「きっと犬か小鳥を飼っているアニメーターがいるんだろうな」と感じさせる挙動。動かされているのではなく、動いているロボットが、そこにいる。
より未来的なフォルムのイヴは浮遊感とツンデレなキャラクターがツボ。あのツルっとした質感にもそそられる。ひと昔前のオモチャのような、輪郭がにじんだ青いライトの眼もチャーミングだ。
そして、忘れてならないのが音である。「R2-D2の『ピポパポ』を作ったベン・バートが参加」というのは、ただのキャッチーな宣伝文句にあらず。どこか温かな電子音から轟く重低音まで、サウンドひとつひとつが作品をしっかりと支える。『ハロー・ドーリー!』からの引用やサッチモ、オリジナル・スコアからなるサウンドトラックも見事に画面とマッチ。『エイリアン』で無機質なコンピュータの声に右往左往したシガーニー・ウィーヴァーが、こんどはそのコンピュータを演じるというのもユニークだ。
物語は、シンプルに思えて実は、数々の名画からアイディアを寄せ集めて分解して再構築した、というイメージ。
ウォーリーの野性味あふれる生活を描く冒頭部は『未来少年コナン』第1話を連想させるし、『2001年宇宙の旅』や『カッコーの巣の上で』っぽいところもある。ウォーリーの姿に『ショート・サーキット』のナンバー5を思い出す人も多いだろう。
ほかにも、主人公に引っ付いてやきもきさせるペット、不思議な行動をそっと見つめる眼、荒廃した地球、退行した人類、タイムリミット・サスペンスなど、“どこかで観た”ものがふんだんに採り入れられている。それは確かにオリジナリティを削ぐ因ともなっているけれど、実にニギヤカで楽しいストーリーへとまとめられている(説教臭さが少ないのもいい)し、インスピレーションの元となったオリジナル作を考える喜びも提供してくれる。
特に愉快なのが前半部。常々「余計な“説明”など不要。見せてわからせる“描写”こそが映画の真髄」だと考えているが、まさにその具現化(若干の背景説明CMが入ったのは残念だが)。某タレントが「ほとんどセリフもなくて珍しい作り」と語っていたが、いや、これこそが映画なんだ。
どうやら巷では「前半に比べて後半が……」という声も多いようだが、それは前半部が凄すぎる(実際には前半部が“当たり前の作り”なのだが)からだろう。それに、人間には見向きもしないウォーリーの一途さを示し、友だち・仲間・恋人との触れあいを求めてやまないウォーリーと「隣に友だちがいるのに触れあわない人間」を対比し、「生き残ることと生きることの違い」を考えさせるパートとして、あるいは物語を収めるべきところへ向かわせる起承転結の“転”として、後半部の意義を評価したいところだ。
全体として、ほんのひとときも退屈しない、面白さテンコ盛りの作品。技術的にも、いいとこどりのストーリー構築やキャラクター設定の点でも、万人向けアニメ映画の集大成といえる映画ではないだろうか。
DVD購入は、もはや決定事項。もう一度でも二度でも鑑賞し、より深く細かく魅力を探り、スピンアウト短編『BURN-E』(アンガス・マクレーン監督)で大爆笑することにしよう。
★ここから、さらに突っ込んだネタバレです★
あえて難をいえば、その“テンコ盛り”が“やりすぎ”につながっていることだろうか。
ラスト近く、イヴがウォーリーを修理して天井をブチ抜く場面のスピード感に代表されるように、息つくヒマなく次から次へと動きと出来事を連続させるのが本作。同時上映の短編『マジシャン・プレスト』(ダグ・スウィーツランド監督)のギッシリ感にも圧倒されたが、それを上回る密度が100分間持続する。初めての海外旅行というか、ビュッフェ形式の食事というか、あれもこれもの内容だ。
眠ったイヴをいたわるウォーリーの場面を増やすなどして、もう少し緩急のある仕上がりにしてもよかったように思う。
それと「もしもラストであのまま……」とも考えてしまう。まぁさすがにそれはトラウマを呼ぶエンディングになるだろうが、ラブ・ストーリーである限り、切なさ、やるせなさがもっともっと欲しかったところだ。
そのあたりのテンポとシメが自分好みであったなら、まさしく“神”のごとき映画となっただろう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント