ボーン・アルティメイタム
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン/ジュリア・スタイルズ/デヴィッド・ストラザーン/スコット・グレン/パディ・コンシダイン/エドガー・ラミレス/トム・ギャロップ/コーリー・ジョンソン/ダニエル・ブリュール/ジョーイ・アンサー/コリン・スティントン/アルバート・フィニー/ジョーン・アレン/オクサナ・アキンシナ
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸3/技4
【俺は誰なんだ?】
いまだ記憶を取り戻せず、フラッシュバックに悩まされ続ける元CIA工作員ジェイソン・ボーン。彼を殺人兵器に仕立て上げたトレッドストーン計画と、そのアップグレード版“ブラックブライアー”についての記事を発表した記者サイモン・ロスから情報を得て、ボーンはスペインへ向かう。いっぽうCIAではノア・ヴォーゼンらが、前責任者パメラ・ランディの静止も聞かず、記事の情報源とボーンを危険人物として消し去ろうとしていた。
(2007年 アメリカ/ドイツ)
【純娯楽シリーズ、極上の完結編】
シリーズ完結編。かなり「前の2作を観ていない人は置いてけぼり」的な作りとなっていてやや不親切かも知れないが、逆にシリーズのファンにとっては嬉しい内容ではないだろうか。
とにかく徹底されるのは、スピード感。何が起こっているのかわかるかわからないかくらいの短いカットで格闘やカーチェイスが畳み掛けられて、観るものをアクションの渦へと叩き込む。
枝葉をほとんど用意せず、ものすごい勢いで飛ばすストーリー。その割には内容が理解できるよう整理されていることに驚く。めちゃくちゃに仕事のデキるCIAの連中など、プロフェッショナリズムの描写も見事。
暗い室内を舞台にしたシーンの多用+アンダー気味の撮影も、「暗部を描いた物語」という雰囲気を倍化させる。
このあたり、前2作を踏襲する作劇・演出プランといえるだろう。
とりわけ本作では「見せてわからせる」という手法が、さらに洗練された印象だ。
たとえばサイモン・ロスの確保を巡る駅周辺のシーンでは、カメラに写らないよう意識しながら指示を出すボーン、その指示にうろたえるロス、監視する本部、群衆の中で浮かび上がる追跡者、密かに行動を進める狙撃者といった各人の様子を巧みなカットでつなぎ、サスペンスを1点へ向けて収束させていく。
また、ダニエルズ、ニッキー、ボーン、暗殺者デッシュによる追跡劇と対決も、やはり縦横にカットバックが用いられ、しかも数十分もの間ほぼセリフなしで描かれる。それでもわかってしまう、状況、危機、登場人物たちの思考、無闇に話さないことでもたらされる緊迫感とリアリズム。そのヒリヒリ感が極上。モロッコの街並(の特徴)をちゃんと生かしたアクションになっている点も誠実だ。
非アクションのシーンでも、パメラからの電話に出ようとしない長官(自身が積極的に関与することなく事を闇に葬ろうという意図)、悠長にヒゲを剃っているヴォーゼン(もう事件は解決したと思い込んでいる)など、実に上手く、動作によって思考・感情を表現してみせる。
いっぽうで、説明するところはちゃんと説明する、と割り切ってセリフに頼るのだが、その際にも「本当に何も覚えていないのね」など無駄を排した会話で冗漫にならないよう気を配っている。
シリーズを通じて「よく出来ているなぁ」と感心させられるが、中でも本作が“勢い”と映画的手法の洗練度・徹底ぶりでは一番だろう。第2作『ボーン・スプレマシー』と本作の意外なつながりかたも気が利いている。
全作2時間以内とコンパクトなシリーズでもあり、できれば3作連続して鑑賞したいところ。
まぁ全部観たからといって何か強烈なメッセージが心に残るわけでもないし、エドガー・ラミレスのパズやジュリア・スタイルズのニッキー・パーソンズはもうちょっと大きく扱ってあげてもよかったのになぁとか、ボーンはもっと悩んで苦しんでもいいのになぁなど、「あまりにコンパクトにしすぎたせいで厚み・深み・ふくらみは欠如している」という不満も感じないわけではない。
が、少なくとも純アクション・純娯楽作としては十分に楽しめるシリーズである。
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