007/カジノ・ロワイヤル
監督:マーティン・キャンベル
出演:ダニエル・クレイグ/エヴァ・グリーン/マッツ・ミケルセン/ジェフリー・ライト/ジャンカルロ・ジャンニーニ/カテリーナ・ムリーノ/サイモン・アブカリアン/イェスパー・クリステンセン/ジュディ・デンチ
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4
【ジェームズ・ボンド。00ナンバーに昇格した男】
英国諜報部MI6に籍を置くジェームズ・ボンドは、ようやく00ナンバーへの昇格を果たす。独断専行の諜報活動は上司Mに睨まれるが、爆弾犯との追跡劇の末に入手した携帯電話から、テロリストたちの資金運用役ル・シッフルへとつながる情報を得る。アフリカからマイアミ、そしてモンテネグロへと、財務省のヴェスパー・リンドとともに手がかりをたどるボンド。その行く先には、権謀術数と裏切りの数々が待ち受けるのだった。
(2006年 アメリカ/イギリス/ドイツ/チェコ)
【新生ボンド誕生。でも、もっと開き直りを】
オープニング。クラシカルなデザインと新しいテクノロジーを融合させたタイトル・バックに「新時代の007シリーズを作るんだ」という意気込みを感じる。その意欲は、まずまず成功している。
序盤から、通常のアクション大作のクライマックス級といえる追跡劇で観客を惹きつける。紛争と経済、争いと金とが背中合わせに存在する「新しい007的世界」を印象づける。仕事と愛(というかボンド・ガール)、すなわち既存の007シリーズ的要素を大切にしつつも、ことさらにジェームズ・ボンドの暴力性をクローズ・アップして、ただスタイリッシュなだけでも色男でもない、タフガイとしての007をアピールすることも忘れない。
以後も、緩急をつけながら基本的にはスピーディに、Aを追いかけたらBにつながる手がかりが見つかり、その先にはCがあり……と、飽きさせない流れで話を展開させていく。
まぁ「これで一段落かと思ったら、まだあった」がこれでもかと続く後半部はちょっとお腹一杯になりすぎるけれど、テンポの良さとギッシリ感はなかなかのものだ。
ダニエル・クレイグも、やや暴力性が突出した新生ボンドにハマるキャスティング。敵役マッツ・ミケルセンの、爬虫類を思わせるヌメっとした視線も印象的だ。
カラーというより総天然色とでも呼ぶべきギラっとした色合いの画面、そこに気ぜわしく重ねられて緊迫感を生み出すBGM、いかにもアクション映画的なクッキリした音響も、新時代の“汗っぽい”007シリーズを構成する要素として機能する。
と、各パーツも、それをコーディネートする演出の腕も相当に高いのだけれど、もうひとつ突き抜けられなかった印象が残る。
たぶん、出来事を追うのに手一杯で、ボンドの内面まで掘り下げられなかったことと、“遊び”が足りないこと、そして開き直り切れなかったことが原因だろう。
ヴェスパーへの愛情はそれなりに描かれるものの、ボンドの価値観・行動規範とかMとの信頼関係とか、そういう“ボンドの、キャラクターとしての深み”にまで踏み込んでいかなかったことが惜しまれる。
また本筋とは関係のない要素がまったくといっていいほど盛り込まれなかったことが、全体に窮屈さを生んでもいる。
たとえば「いままでと違って、ここまで非情なジェームズ・ボンドなんですよ」と徹底するか、逆に「こんなに悩んじゃうボンド君なんです」と持っていくか、あるいは「妙に鶏肉が好きなボンド」とか、もっともっと新しさを出してもよかったんじゃないか。
現時点でも確かに「新しい007映画」だと感じるし、しっかりエンターテインメントとして仕上がってもいるけれど、もう一歩踏み込むことでさらなる傑作になったのではないか。
そのあたりを、監督がマーク・フォースターに替わる次回作に期待したいところだ。
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