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2009/05/29

幸せのレシピ

監督:スコット・ヒックス
出演:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/アーロン・エッカート/アビゲイル・ブレスリン/パトリシア・クラークソン/ジェニー・ウェイド/ボブ・バラバン/ブライアン・F・オバーン/リリー・レイブ/エリック・シルバー/ゾーイ・クラヴィッツ/マシュー・ローチ/デアボラ・モロイ/アコ

30点満点中18点=監4/話3/出3/芸4/技4

【そこは、私のキッチン。けれど……】
 セレブたちでにぎわうNYのレストラン「ブリーカー22」、厨房で腕をふるうのは、客とたびたびトラブルを起こし、いい料理を作ること以外に興味なしというケイトだ。ところが姪のゾーイと暮らすことになり、馴れない母親としての役目に四苦八苦、新たにスー・シェフとしてやってきたニックとも衝突してしまう。「私のすべて」と自負する厨房も、彼女の料理を食べようとしないゾーイも、自分の力で何とかしようとするケイトだが……。
(2007年 アメリカ/オーストラリア)

【上々のリメイク】
 こちらもなかなかいい、と、kimion20002000さんに教わった『マーサの幸せレシピ』のリメイク版。なるほど、なかなかどころか、かなりいい映画に仕上がっている。

 全体に“見せる”作りになっていて、必要な場面/カットが適確につながれていくという印象。特に事故を知らせる電話を取るあたりの間の取りかたとカメラの使いかた、向かい合って寝るケイトとゾーイを画面に収めるフレーミングなど、実に映画的だ。
 照明や影による明暗・濃淡が画面に意味をもたらし、役者たちはペンを髪に差すなど何気ない仕草にも気を遣い、音楽も楽しく美しく使われて、細部まで意識の行き届いた、“格”のある作品だと感じられた。

 で、そこで描かれるのは“居場所の作りかた”といったところか。

 客と衝突し、スタッフからは不安げな視線を送られるケイトだが、魚市場ではヒロインだ。恐らく現在のポジションを築き上げるまでに、いろいろな人に対して積極的にアプローチし、人付き合いが苦手なくせに「場の中心」として振る舞ってきたのだろう。もちろん不要なものを取り払い、さまざまなルールを定めたりして、自分を律してもきたはずだ。
 女性シェフということで、少し低く見られることもあっただろう。相当な無理をして“自分の厨房”を手に入れたわけだ。

 ひょっとするとニックもそうだったのではないか。自由な存在のように見えて実は、新参者として行く先々で快く受け入れてもらうため、歌ったり踊ったり必要以上に明るく振る舞ってきた。が、その行為が誰かの心を乱すことに我慢できないという、ナイーブな人物でもあるのだろう。
 ゾーイは、自分が自分らしくいられる温かな場所を求めて子どもらしくスネてみせる。

 それぞれが“自分の居場所”を手にしようと、あるいは守ろうとする。だがやがて、みんな気づく。ただジっと扉を閉じていただけでは、そこが本当の自分の居場所になることはないってことに。
 セラピストがいうように、人生は先が見えないもの、原題が示す通り、人生なんて予約できないものなのだ。
 ルールに縛られず、過去や未来を恐れず、ただ自分を信じて、誰かを迎え入れたり、出て行って話しかけたり、居場所を分け合ったり。もちろんそうすることで起こってしまうトラブルや不測の事態もあるけれど、心を開くことでようやく、私もあなたも幸せでいられる場所を作り上げることができるはず。そういうことを示すために「出る」「入る」という行動や場面が多用される。

 つまり単なる「作り直し」にとどまらず、何を伝えようか、どう撮ろうかというところまで踏み込んで作られている映画。オリジナルの『マーサの幸せレシピ』が良作であったこともあらためて思い知らされる、上質なリメイクといえるだろう。

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