地上5センチの恋心
監督:エリック・=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ/アルベール・デュポンテル/ファブリス・ミュルジア/ニナ・ドレック/アラン・ドゥテー/ジャック・ウェベール/カミーユ・ジャピ/ジュリアン・フリソン/ローランス・ダメリオ/ニコラス・バイシー/エリック・バーク/ブルーノ・メッツガー
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸4/技3
【作家と読者、近くて遠いふたりが出会う】
夫に先立たれて10年、ベルギーに住む平凡な主婦オデットは、昼はデパートの化粧品売り場に立ち、夜は内職でレヴュー用の羽根飾りを作って、美容師の長男ルディと職探し中の長女スー・ヘレンを育ててきた。彼女にとって最大かつ唯一の楽しみは、フランス人作家バルタザール・バルザンの著作を読むこと。けれどバルザンは評論家から「陳腐」とこき下ろされ、妻の浮気も知って落ち込んでいた。昨日まで作家と読者だったふたりは……。
(2006年 フランス/ベルギー)
【突っ込み不足ではあるが、オシャレで楽しい】
雰囲気作りのセンスは良質。
特にサウンドトラックは、オデットの「小さな世界でも明るく生きよう」という心情を示す陽気な楽曲の数々と、調やアレンジを変えて繰り返されるメインテーマが心地よく耳に残り、この映画の持つ“ふわり”とした空気を素直にこちらへ届けてくれる。
鮮やかな色づかい、オデットのアパートに飾られた人形や夕日の絵といった美術も楽しい。
また、ナナメの画角で不安や焦りを、ちょっと長めのカットで“嫉妬”を表現したりなど、工夫により画面に意味を持たせる手際もなかなかのもの。これが初監督作とは思えない作りの上手さを見せてくれる。
もちろん、主演カトリーヌ・フロの存在感も大きい。『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』でも「可愛い人だなぁ」と感じたが、ここでもその愛らしさは健在。現実と空想の間を行き来し、オンナ、少女、母親、さまざまな顔を無意識に使い分ける“女性”を、清々しく演じている。
日本で同年代の女優を探すと、秋吉久美子、田中裕子、田中好子、余貴美子、大竹しのぶ、戸田恵子、久本雅美、宮崎美子あたりですか……。あ、意外と粒が揃ってるじゃん。
つまりこの年の女性ってオデットと同様、オンナと少女と母親の素養をいっしょくたにした魅力を放っている、ということなのかも知れない。
で、そんなオデットの、軽快ながらも不器用な生きかたをテンポよく描く前半は上々なんだけれど、いざバルザンと出会ってからの後半の展開がちょっと不満。
夢に見ていたけれど、あってはならないこと。その状況にわが身を置くことになったオデットの“浮かれ”と“不安”を、もっともっとダイレクトにわかりやすく描いてもよかったんじゃないか。つまり、これまで意識しなかった自分の中の「オンナと少女と母親のバランス」が崩れそうになって、オロオロする姿を。
そのへんをサラ~っと流して、うやむやのままオデットに自己完結を強いたような気がして、「よかったね」とか「そうか、女性ってそういう価値基準のもとに人生を選択するのか」といったカタルシスが不足してしまっているように感じた。
せっかく、ゲイの長男、つかみどころのない長女、居候、やっかみだらけの同僚、イエス、『羅生門』(?)、ブラ売場など、きれいにキャラクターやキーワードを配置してあるのに、それらを十分に生かし切れているともいいがたいし。
でも、オシャレで楽しい映画であることは確か。もうちょっとアレンジしてやれば、気楽に観られて何かが残る、という傑作になったはずだ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント