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2009/06/25

JUNO/ジュノ

監督:ジェイソン・ライトマン
出演:エレン・ペイジ/マイケル・セラ/ジェニファー・ガーナー/ジェイソン・ベイトマン/アリソン・ジャネイ/J・K・シモンズ/オリヴィア・サールビー/アイリーン・ペッド/ダーラ・ヴァンデンボッシェ/ヴァレリー・チャン/エミリー・パーキンス/レイン・ウィルソン/シエラ・ピットキン

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【里親探しの行方】
 同級生のポーリーと興味本位で関係を持ち、妊娠してしまうジュノ。意外と物わかりのいい退役軍人の父マック、口うるさいけれど気さくな継母ブレン、年の離れた妹LBたちと暮らす、周りからはちょっと変わり者だと思われている16歳の女の子だ。中絶に踏み切れなかった彼女は、親友のリアに相談、里子を欲しがっている夫婦を探すことに。若くてリッチで趣味もいいパーフェクトなカップル、ヴァネッサとマークを見つけるのだが……。
(2007年 アメリカ/カナダ)

【人の誕生の物語、かも】
 ボトルからラッパ飲みするジュノ、その姿が、焦りとパニックにサンドイッチされた「どうにでもなれ」的な彼女の心情を表す。
 似たような豪邸が立ち並ぶ様子を次々と捉えたカットは、ヴァネッサとマークがどんな街に住むどんな人かを示す。
 ファンシーなジュノの部屋、場面を彩る音楽、派手なことなど何もない地方都市のロケーションといった、雰囲気作りもいい。たいして意味はないのだけれど、裏には確かに想いが潜む、そんな会話のひとつひとつも生々しい。

 自らの想いを表現するジュノ=エレン・ペイジが極上だ。ポーリーが病院に現れたときの、あのホっとした笑顔が泣かせる。『ハードキャンディ』で感じた「美人になりきれない女の子特有の色気」がさらに倍増。まだ何者にもなれない人が発するニオイの中で、溺れまいとあがく16歳の危うさを上手に演じる。

 彼女を包むのは、責任感ゼロ、デリカシーもゼロ、痴話げんかばかりが繰り返される世界。ジュノをはじめとして子どもはみんなバカだけれど、大人だってみんな身勝手で知ったかぶりで、誰かと誰かが永遠に仲良くやっていけるとは思えない世界。でも、「ひょっとしたら、それは可能かも」と感じさせる不思議な温かさもある世界。

 ああ確かに、世の中ってこんな風に、曖昧で、いいことと悪いことの区別なんて明確じゃなくて、人間は不器用で、上手くやっていくことはとても難しくて、だからこそ拙いながらも想いを伝えあわないとどうにもならないものなのだ。
 中盤、何を描きたいのか、どこへ持って行きたいのか、テーマがふらつく気配があるのだけれど、それも当然。だって登場するのは、まだ生きるテーマを見つけられていない「人間以前の人間」ばかりなのだから。

 たぶん、そのテーマを見つけることが、あるいは母親や恋人といった何者かに「なる」ことが、人としての誕生なのだろう。
 ジュノの継母ブレンは“犬を飼う主婦”になったわけだけれど、そこにはジュノやマックとの相談があったはず。そういう語りあい、誰かとの関わりあいの中で、人は何かに「なる」わけだ。
 画面にたびたび登場する、人、クルマ、列車、自転車など、どこかへ向かって走るアイテムが「何かになろうがなるまいが、人生はどこかへ向かっている」ことを教えてくれる。どうせ目的地に着くのなら焦る必要はないのだろうけれど、何かに「なる」ことを諦めてもいけないはずだ。

 この監督の前作『サンキュー・スモーキング』は、狭い世界の中を描いているように思えて実は普遍的なテーマを扱った映画だった。本作も然り。
 人が「何かになる」までの経過を、押しつけがましくなく、無理に教訓を詰め込まず、全体を覆うサラリ感とともに描く秀作である。

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