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2009/06/14

素敵な人生のはじめ方

監督:ブラッド・シルバーリング
出演:モーガン・フリーマン/パス・ベガ/ジョナ・ヒル/アン・デュデック/クマール・パラナ/ボビー・カナヴェイル/ジェニファー・エコルズ/アレクサンドラ・ベラルディ/ジム・パーソンズ/ダニー・デヴィート/リー・パールマン

30点満点中18点=監3/話4/出5/芸3/技3

【老優とレジ係、ふたりのドライブが始まる】
 4年近く現場から離れている老優が、あるインディペンデント映画からスーパーの店長役をオファーされる。リサーチとロケ地の下見を兼ねて、カーソンにある小さなスーパーマーケットへと連れて来られた彼。が、約束の時間になっても迎えは現れない。役に立たない同僚ばかりに辟易しているレジ係のスペイン人女性スカーレットは、やむなく彼をクルマで自宅へ送ることに。スカーレットが新しい仕事の面接を控えていると知った老優は……。
(2006年 アメリカ)

【責任と無責任のコメディ】
 驚きのセルフ・パロディに挑んだモーガン爺様、笑わせてくれます、感心させてくれます。シリアスな悪党や大統領もいいけれど、ちょっとトボケたこういう役が、やはり似合う。
 この作品の中だけでも、いろんな顔を見せてくれる。出演作のビデオが安売り&まとめ売りされているのを見てムっとしたり(アシュレイ・ジャドは怒らなかったんだろうか)、スーパーには強盗がつきものだといわれて不安に目を見開いたり、スカーレットが送ってくれると知ってイタズラっぽく微笑んだり……。

 まぁどこからどこまで自身の本当の姿が投影されているのかはわからないけれど、きっと、新しい発見を素直に喜んだり、不器用ながらも役柄のエッセンスを1つ1つつかみ取ったり、衣装の材質を気にしたりする人であることは確かなんだろう。
 そういう、名優モーガンを観る楽しさにあふれた作品。
 彼に引っ張られてか、相手役のパス・ベガも不安定な異邦人を好演し、チョイ役の人たちもダニー・デヴィート&リー・パールマン夫妻もナチュラルで存在感たっぷり。「書類を見る」という芝居だけで笑わせてくれるジム・パーソンズも愉快だ。

 彼らの演技をしっかり捉えるために、長まわしが多用される。でも一本調子だと感じさせないのは、やっぱりお芝居がしっかりしているからだろう。カットが切り換わった際に前のカットとつながっていないところが目立つなど、やや乱暴な作りではあるけれど、画面の中に収められた演技とメッセージには芯が通っている。

 で、どんなメッセージかというと、責任と無責任
 登場人物は無責任なやつばかり。店員は無責任、客も無責任、店長も無責任、迎えに来ないドライバーも無責任。スカーレットにあれやこれやとアドバイスする老優だって、たぶん、彼女の生涯について全責任を負おうなんて考えちゃいないだろう。
 唯一、責任感を持つ人物として描かれるスカーレット。ただ、彼女の意識はどちらかといえば他人に向けられている。本来、自分自身(の思考や立ち位置や行動)にさえ責任を持ちさえすれば、それでいいはずなのに。

 ポール・サイモンの歌も、自分は何者であろうとするのか、それを決めるのは自身の責任感だと告げているのだろう。
 ルールで自分や他人を律するのもいいけれど、時にはルールから外れ、無意味な束縛から逃れて自由になることだって大切だ。もちろん、そこには既存のルールを破壊することに対する責任が生じる。ルールを曲げちゃうんだから、これまでより“いい自分”にならなくちゃいけないのだ。
 加えて、ちゃんとした人物を演じるために役者が果たさなければならない責任や、お金を払って観てくれる人に対して“いい映画”を提示しなければならないという製作者としての責任も、本作は語る。

 まとめれば、世の中の無責任さに振り回されず、自由な意思で自分を作り上げていくことが、この世に生かされている私たちにとっての、責任。
 軽快なタッチでそんなことを教えてくれる映画である。

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