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2009/06/06

スター・トレック

監督:J・J・エイブラムス
出演:クリス・パイン/ザッカリー・クイント/エリック・バナ/ブルース・グリーンウッド/カール・アーバン/ゾーイ・サルダナ/サイモン・ペッグ/ジョン・チョー/アントン・イェルチン/ベン・クロス/ウィノナ・ライダー/クリス・ヘムズワース/ジェニファー・モリソン/レイチェル・ニコルズ/ファラン・タヒール/クリフトン・コリンズ・Jr/ジミー・ベネット/ヤコブ・コーガン/グレッグ・エリス/レナード・ニモイ

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【USSエンタープライズ、出航】
 カーク艦長の命を賭した活躍により、ネロの襲撃を受けた宇宙船USSケルヴィンから800人のクルーが脱出した。その際に生まれたカークの息子ジミーは、血の気が多く無鉄砲な若者へと成長、自らも連邦軍アカデミーへと進む。あの悲劇から25年、救難信号を受けたパイク艦長は、ジミーやスポック、マッコイらを連れてUSSエンタープライズでバルカン星へと向かう。だがその先に待っていたのは、ネロによる策略だった。
(2009年 アメリカ)

★ややネタバレを含みます★

【ぐるっと一周、デジャ・ヴュの幸福】
 既視感に満ちた作品、といえるだろう。
 意図的なハレーションをはじめとするライティング、バストアップとフルショットのバランス、揺れるカメラ、大胆な構図と壮大かつ神経質な音楽で盛り上げるスリル、キーとなる行動の5秒前または5秒後までうつすシーン構成……といった作りは『LOST』そのまま。雪の中から現れる怪物の挙動は『クローバーフィールド』のモンスターそっくり。JJ節ともいえる仕上がりである。

 ブリッジのデザイン、未来都市、ガジェット類、エイリアンの造形など美術面は当時より格段に“現代的”だが、エンタープライズ号のフォルムはオリジナルを踏襲するなど、トータルとしては『スタートレック』から大きく逸脱しないよう配慮がなされていると感じられる。
 さすがに特撮/CGはTVシリーズの何億倍もゴージャス。が、「かつてない」ようなレベルではなく、近年のSFムービーでよく見られる“物量で圧倒”的な路線上にあるように思える(地球上、遠くに霞んで見える巨大建築物の佇まいは個人的にツボだけれど)。

 雪で覆われた惑星は『エピソードV』を、乗員の姿がシャトルの窓越しに見える場面は『2001年宇宙の旅』を想起させる。人気シリーズの“ビギニング”というコンセプトも昨今のハヤリ。「大雑把なストーリー、ちょっとアヤしい科学考証、人間ドラマとアクション」という、スペースオペラの王道も外さない。「赤色物質」なんかモロに旧時代SF的なアイテムだろう。
 劇場版第2作『カーンの逆襲』でもっとも印象的だった「耳からナメクジ侵入」に似たシーンも登場。コバヤシマルのチートに関するエピソードなどトレッキーが喜ぶアレやコレやも散りばめているらしい。

 何より既視感を覚えたのは「時間(タイム・スリップ)が大きな意味を持つ」という設定。劇場版第1弾のヴォイジャーをはじめとして、シリーズではさんざん使われたアイディアだ(調べてみたら、TV版1stシリーズで早くもタイム・スリップのネタは登場している)。
 また“リ・イマジネーション”という点で本作と同様の位置づけにあるバートン版『猿の惑星』に近い展開・雰囲気(時間差タイム・スリップ)も用意されている。

 要は「どっかで観た」の集合体である。

 唯一の目新しさといえば、役者たちか。
 エリック・バナ、ウィノナ・ライダーといった売れっ子(?)は「あ、そうだったの」という扱いにとどめ、主要登場人物には、TVシリーズのオリジナル・キャストを髣髴とさせる風貌であることを前提としつつ「それなりにキャリアも代表作もあるが、まだ大ブレイクには至っていない」という陣容を揃えたのが正解。
 まぁザッカリー・クイントに関しては「いつカークの脳みそを引きずり出すか」とヒヤヒヤさせられたが、きっちりと若き日のスポックをまっとうしていたし、それ以外も全体として新鮮だ。

 で、この既視感と新鮮さのハイブリッドは何を意味し、本作に何をもたらしたか?

 近年、SFムービーの多くは“時間”の価値観・概念を積極的に採り入れることで物語としてのスケールを増大させてきた。同一の時間軸で積み重ねられていく英雄譚、長大な宇宙史、時間を遡っての「やり直し」、人類に訪れた「その時」……。
 その起点が『スタートレック』だとするなら、今回のこの“ビギニング”で“時間”を大きく扱うことになったのも当然だろう。シリーズではお馴染みの“時間”を重要アイテムとし、旧来のトレッキーに満足してもらう内容を目指す。いわば二重の意味で「時間を戻る」「時間を旅する」映画であるわけだ。

 ただし、単に180度反転して戻る旅にしなかったのがポイント。
 エイブラムス監督は、この40年間に『スタートレック』の内外で積み上げられてきたSF的作劇や演出の技法、特撮技術などを集約・編集し、トレッキー以外の人にも楽しんでもらえる作品=純スペースオペラとして本作が機能するよう心を砕いた。
 SFムービーがバスに乗って辿ってきた道を、そのままUターンして引き返すのではなく、大きく弧を描いて遠くから眺めながら戻る、そんなイメージだ。
 そうして入念に再構築した世界(作品内世界もまさに再構築されている)に、フレッシュなキャストというパワーを加えて、もう一度反転、前へ進むベクトルを与える。
 つまり、360度の旅。しかもバスから飛行機に乗り換えて。

 だからこそ、既視感の中にワクワクもあるのだ。さらなる未来への期待もふくらむのだ。
 あのレトロな制服が古臭く見えず、「ピュイーン」という60年代テイストたっぷりのレーダー音(?)も不思議と画面に馴染むのだ。
 従来シリーズとは別の時間軸へ突入するという“禁じ手”に成功し、「別の新しいモノ」、そして一級のエンターテインメントとして成立させてしまえたのだ。
 もしジミー・カーク役が当初の予定通りマット・デイモンだったら、本作は二度目の反転に要する推進力を持ち得ず、単なる「既視感だらけのシリーズ最新作」にとどまっていたのではないだろうか。

 そう、ぐるっと一周して前へ進む。作中のミスター・スポックがそうであるように、この映画そのものもまた「特殊な旅の果てに、前へ進む」という作品になっていると感じるのである。

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» 映画『スター・トレック』(お薦め度★★★) [erabu]
監督、J=J=エイブラムス。脚本、ロベルト=オーチー、アレックス=カーツマン。2 [続きを読む]

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