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2009/07/17

あなたになら言える秘密のこと

監督:イザベル・コイシェ
出演:サラ・ポーリー/ティム・ロビンス/スヴァレ・アンケル・オウズダル/ハビエル・カマラ/ダニー・カニンガム/ディーン・レノックス・ケリー/エマニュエエル・イドウ/エディ・マーサン/スティーヴン・マッキントッシュ/レグ・ウィルソン/レオノール・ワトリング/ジュリー・クリスティ

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【静かに語られる、彼女と彼の秘密】
 工場で単調な毎日を過ごすハンナ・アミラン。耳が不自由で、誰とも打ち解けず、ただ黙々と仕事をこなす。陰鬱で真面目すぎるハンナの姿勢に上司は休暇を取るよう勧告、彼女は旅に出る。そこで偶然耳にしたのは、海に浮かぶ油田掘削施設で事故があり、介護を必要としている負傷者がいるということ。看護士の経験もあった彼女は、その負傷者=ジョゼフの手当てを担当することに。それぞれに秘密を抱えたふたりが、海の上で出会う。
(2005年 スペイン)

★ややネタバレを含みます★

【かくも静かな、かくも悲痛な叫び】
 これほどまで鮮やかに、静かに、痛々しく、“生きていない人”を描いた映画を他に知らない。

 一定のリズムが刻まれるBGM、繰り返されるシンプルな食事、積み上げられるアーモンド石鹸、捨てられるクロスステッチ……。それらは、ハンナがただ時間に流されているだけの、変化や進化を望まない存在であることを強烈に印象づける。

 だが、誰とも接触せず、ただ流されるだけの、変化のない生活などあり得ない。だって世界には「自分とは異なる誰か」があふれているのだから。
 作中の登場人物および役者の出身地は、クロアチア、イギリス、アメリカにスペインにインドと多岐にわたり、それぞれに過去や「いま現在へ至った理由」を持つことが示される。画面を彩る音楽や道具立ては、ジャズにスパニッシュ、J-POP(神山みさ)にイタリアン。
 海上の掘削施設という閉鎖された場所にさえ、こんなにも時空の広がりがある。“異”なるものの集合体としての社会がある。
 そして、程度の大小こそあれ、あるいは理解されようとされまいと、世界中の誰もが傷を抱えて生きているのである。

 やがてハンナとジョゼフは、たがいの傷を吐露しあう。「程度の大小」という言葉を超えた重く深い傷であり、誰かと関わりあうことで負った傷なのだが、それでも人は誰かとの関わりあいなしに暮らすことはできず、心のどこかで関わりあいを求めているのだろう。

 オープニング、クレジットとともに浮かんでは消えるキーワードは、隠そうとしても零れ落ちてしまう“人の中身”のあらわれだ。
 機能を止めた掘削施設、陸に打ち上げられた船、泳げない主人公、それらは地球という、もはや用なしの、未来のない場所から逃げ出すことのできない僕らの生きざまを暗喩する。
 そして僕ら人間が、『罪』という属性のもとに生まれた生き物であることに怒りと恥とを感じる。
 それでも、前へ進むしかない。誰かとの関わりあいを通じて、ほんの少しだけ以前の自分より強くなって、進んでいくしかない。人間は、それができる生き物でもあるはずだ。

 音と画面のシンクロやカットのつながりに乱暴な部分も残り、完璧な仕上がりとはいい難いが、サラ・ポーリーの透明感(と、その裏側の闇を感じさせる視線)あふれる好演もあって、“叫び”を感じ取ることのできる映画である。

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