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2009/07/19

ONCE ダブリンの街角で

監督:ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ/ヒュー・ウォルシュ/ジェラルド・ヘンドリック/アラスター・フォーリー/ゲオフ・ミノーグ/ビル・ホドネット/ダヌシュ・クトレストヴァ/ダレン・ヒーリー/マル・ワイト/マルチェラ・プランケット/ニーアル・クリアリー/ショーン・ミラー/ケイト・ヒュー

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸5/技3

【街角で出逢った、彼と彼女】
 父親が経営する掃除機の修理ショップを手伝いながら、昼に夜に、ギターを持ってストリートに立つ彼。彼のもとを去った女性のことをどうしても忘れられず、恋の始まりと終わりを歌い続ける。そんな彼に声をかけたのは、父親からピアノの手ほどきを受けたという、チェコからやって来た彼女。愛する男を故郷に残してきた彼女は、不安定な生活の中で生きている。ふたりが出逢ったとき、何かが、どこかへ向けて動き始めるのだった。
(2006年 アイルランド)

【歌と、距離感と、おマヌケさ】
 ポイントは3つ。
 まず、いうまでもなく“歌”である。ストリートを舞台とするシンガー・ソングライターの映画らしく、いかにも手作り感の強い楽曲が全編に渡って鳴り響く。ほとんどが悲恋を主題としているのだが、どの曲も不思議と心地よく胸の中へと潜り込んでくる。

 主演グレン・ハンサードの声質と音域にピタリと合っている曲ばかりだと思ったら、それもそのはず、すべて彼自身の作だとか。その生々しさが心地よさと「吐き出される想い」としてのリアリティを生んでいるわけだ。
 中でも、オスカー受賞のテーマソング『Falling Slowly』は珠玉の名曲。クリス・アレンのカバーもいいけれど、やっぱりこのオリジナルの持つ透明度と悲哀は素晴らしい。

 また、彼が作曲し、彼女が詩をつけた『If You Want Me』も興味深い。これってメロディ/コードといい、歌っている内容といい、ほとんど演歌。ちょっとアレンジを変えて日本語訳を工夫すれば、石川さゆりあたりが歌っていてもまったく不思議じゃない。
 アイルランドと日本が、これほど近い距離にある関係とは思ってもみなかった。

 2つ目のポイントが、まさに、その“距離感と関係”だ。
 ドキュメンタリー・タッチ、というより、「友だちが彼らの近くでカメラを回しました」という撮りかたが徹底される。
 ふたりのコラボを聴いている楽器屋のおじさん(表情がインサートされるタイミングの絶妙なこと)、つい歌い出す銀行の融資担当者、陽気でプロフェッショナルなバンド・メンバー、居住まいを正すレコーディング・エンジニア……。彼と彼女とその周囲の「ほんの一瞬の邂逅だけれど、決して忘れられない関係」が描かれる。

 別れたガールフレンドを映し出すフィルム=「記録された関係」から漂うのは、そこから近づくことも遠ざかることもない、寂しい距離感。主演ふたりが無名のguyとgirlとして扱われることによって強められる、「どんな世界のどんな男女にも起こりうる出来事」というイメージ。
 手作り感あふれるフィルムと、そこに刻まれたあたたかな人々によって、映画の中の登場人物どうし、あるいは各人物と観客との距離感も作られていくことになる。

 そして3つめが、掃除機である。あの、ゴロゴロと引きずり回される掃除機のマヌケさ。でもきっと、何かが始まるときってのは、こういうマヌケな出来事が背景にあるものなんだと思う。
 だって、人と人との関係や距離も、あるいは「ここから先へ歩き出そう」と決める瞬間も、決してスマートでスタイリッシュなものとは限らず、得てしてマヌケなものなのだから。

 歌と、距離感と、スマートじゃない人の生きかた。この3つに、共感を覚えることのできる映画である。

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