フェイク
監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ/ジョニー・デップ/マイケル・マドセン/ブルーノ・カービイ/ジェームズ・ルッソ/アン・ヘッシュ/ジェリコ・イヴァネク/ジェリー・ベッカー/ロバート・ミアノ/ブライアン・タランティナ/ロッコ・シスト/ザック・グルニエ/ロニー・ファラー/ラリー・ロマノ
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【潜入捜査官の苦悩】
NYの顔役ではあるものの、上納金の工面に窮しているマフィアのレフティ。彼は宝石鑑定人ドニー・ブラスコを見込んで弟分にする。だがドニーの正体は、FBIの潜入捜査官ジョー・ピストーネだった。次第に信頼関係を強めていくレフティとドニー、殺害される大ボス、レフティとは旧知であるソニー・ブラックの出世、地域を牛耳るソニー・レッドとの確執、危機を迎えるジョーとマギーの夫婦関係……。彼らの行く手に待ち受けるのは?
(1997年 アメリカ)
★ネタバレを含みます★
【主演ふたりの好演が光る、崩壊の物語】
壊れゆくものが描かれる。マフィアの組織、ジョーとマギーの夫婦、レフティとトミー、そして……レフティとドニー。
いずれも“ファミリー”と呼ばれる関係が、作中でどんどんと壊されていくのだ。
ソニー・ブラックら末端のマフィアたちが、しょせんはチンピラ、図体だけデカくなったガキどもの集まりであることが示される。レフティとドニーには、青春という面映い言葉を使いたくなるようなつながりがある。レフティとトミーは、純粋ゆえに壁を作ってしまう「親子」だ。
つまり壊れていくのは、若くて純朴な関係ばかり。
それに対し、あくまで「対等な大人」の関係であった潜入捜査官ジョーと妻マギーだけが、かろうじて崩壊を免れる。その皮肉。あるいは、それこそが人生の真理か。もちろんジョー=ドニーの任務が彼らの家庭にしこりを残し、名前を変えて暮らす現在に影を落としているであろうことは想像に難くないのだが。
ひょっとするとジョーとマギーこそが、もっとも辛い地獄を生き、関係を維持するために人として壊れていくことになるのかも知れない。
そうした崩壊の物語を、オーソドックスながらも細やかな演出で紡ぐ。
まず「?」を提示してから「!」を見せる方法論と、セリフに頼らずディテールを見せることで各人の立場や心情をわからせる語り口が上質だ。
当然ながら、アル・パチーノとジョニー・デップの好演(怪演か)にも目を奪われる。
レフティが大ボスを見るときの、あの畏怖と怨念のこもった表情。ジャージ姿、動物好き、金欠という、威厳もへったくれもない人物を飄々かつドロドロと演じ切るパチーノの鮮やかさ。
なまりを駆使し、視線を細かく動かして、ドニー・ブラスコという架空の人物と苦悩のジョー・ピストーネとを行き来するデップの力量。
このふたりの演技が本作を1つ高いところへ押し上げているのは確実だ。
惜しむらくは“壊れていくもの”に比べて“培われていくもの”の描写が希薄だったこと。
たとえば「マギーはジョーの好物・趣味を忘れていたが、レフティは覚えていた」とか「誰も信じようとしないレフティがドニーだけは信頼した」とか、たがいに親近感を抱いていく様子がハッキリとわかるようなエピソードを序盤~中盤に仕込んであれば、終盤の展開ももっと劇的になったはずなのだが。
加えて音楽の使いかたが大仰で、やや古めかしい。また「Forget about it!(クソ食らえ)」の扱いなど字幕に疑問を感じたら、案の定、誰かさんだったりしてガッカリさせられる。
けれども、作品としては全体に丁寧で、きっちりと出来事と想いとを描き出した映画だといえるだろう。
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