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2009/08/09

サマーウォーズ

監督:細田守
声の出演:神木隆之介/桜庭ななみ/谷村美月/横川貴大/信澤三恵子/佐々木睦/小林隆/田中要次/谷川清美/中村橋弥/玉川紗己子/山像かおり/桐本琢也/板倉光隆/田村たがめ/金沢映子/高久ちぐさ/清水優/安達直人/諸星すみれ/今井悠貴/太田力斗/皆川陽菜乃/仲里依紗/斎藤歩/永井一郎/中村正/富司純子

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸5/技3

【地球を救うのは、大家族の“つながり”】
 高校のアイドル・夏希先輩に請われ、彼女の田舎へ行くというアルバイトをすることになった“数学オリンピック日本代表を惜しくも逃がした”小磯健二。だが先輩の目的が「フィアンセをひいお婆ちゃんに紹介すること」だと知って大慌て、陣内(じんのうち)家の大家族に囲まれてしどろもどろ。その頃、ネット内の仮想空間「OZ」に放たれたAI=ラブマシーンが世界中を混乱に陥れる。健二と陣内家は、世界を救う戦いに乗り出す!
(2009年 日本 アニメ)

★ネタバレを含みます★

【鮮やかに“つながり”と“覚悟”を描く】
 夏といえば花火とスイカと女の子でしょ。作中の佐久間のセリフに対する細田守監督の答えは実に明快だ。
 夏といえば戦争でしょ。
 二度の上田合戦も、甲子園を目指す戦いも、終戦記念日も、夏。ふむ、大切な人や自分の夢やプライドを守るための戦争、その舞台として、夏ほどふさわしい季節はないのかも知れない。
 いや、決して戦争を是認しているわけじゃない。自分と“つながり”のある大切な人、あるいは自分の夢やプライドを守るため、全精神と全能力を賭して戦う“覚悟”こそが重要だと訴えている、といったところだろうか。

 徹底されるのはリアリティだ。
 実在の景色やイベント、商品(洗剤のトップとか)が、大きく小さく散らされる。さらには上田高校、松商学園、佐久長聖といった高校野球の強豪高も実名で登場。作品に生活臭さが漂い、スクリーンの向こうとこちらがしっかりと同一の空間として“つながって”いく。
 背景美術・武重洋二の仕事は、さすが。加えて「背景の上に人物を乗っける」のではなく「立体的に広がる世界の中にキャラクターを配置する」という『時をかける少女』と同様の画面構成となっていて、ますます実在感は高まっていく。
 OZの内部デザインも、キッチュで先鋭的ながらどこか商業的、いかにもベンチャーが立ち上げたヴァーチャル空間っぽい雰囲気に覆われていて、不思議なリアリティを持つ。

 キャラクターたちも、いい。
 なるほど親戚、なるほど外から嫁いできたお嫁さん、と思わせる貞本義行による各人物のデザインと、その見た目の裏にある個々のキャラクター設定を感じさせる描きかたが良。万助おじさんのアバターがイカだったりとか、大リーグのレプリカ・ユニフォームを日替わりで着る由美さん(声は仲里依紗)とか、細やかさにあふれている。
 その由美さん、お婆ちゃんが亡くなった直後、一同が呆然と立ちすくむ中で泣き出す赤ん坊に授乳する場面が素晴らしい。そうして命を“つないで”ゆき、16代も永らえてきた陣内家のたくましさを物語る名場面だ。

 そうしたキャラクターたちに、まさしく命を吹き込む声優陣も上質だ。
 お得意の「言葉にならないセリフ」で本領発揮の神木くん。オロオロ少年をやらせたら天下一品だ。健二が思わず翔太のことを「にぃ」呼ばわりするところが笑えて、ドキリともさせられる。健二を敵対視する翔太のことを、健二自身は「突っ走るお兄ちゃん」として憎からず感じていたわけだ。
 桜庭ななみも、びっくりするほどトーンの上げ下げが上手い。夏希先輩というインテリジェンスと健やかな色気と強さと弱さとツンデレとを天性で兼ね備えた人物像を、見事に表現する。
 佳主馬=谷村美月は「たくさんの親戚がいれば、こういう中性的な子がひとりはいる」というリアリティの創出に寄与する。
 彼らをはじめ、小林隆、田中要次、斎藤歩、富司純子らアニメ外でキャリアを積んできた役者がズラリ。そこへ、誰もが聞いたことのある永井一郎や中村正の声が混じる。栄お婆ちゃん(富司純子)と、その娘・万理子(信澤三恵子!)の、微妙な声の似かたも面白い。
 こうしたキャスティングの妙、すなわち、ふだん僕らが慣れ親しんでいるテレビドラマやアニメと本作との微妙なクロスオーバーが、作品世界と現実世界との“つながり”を意識させるものとして機能する。

 つまり、CGを多用し、主要舞台として仮想空間が登場する、人工的に作り込まれた表現手法=アニメでありながら、かなり強く「実体を感じさせる作品」となっているのだ。

 余談だが、ほんの1週間前に、本作の音楽ミキシングスタジオとしてクレジットされているウエストサイドスタジオへ行き、レコーディングエンジニアとして名前のある内沼映二さんとお会いしたばかり。個人的にも、この映画との(小っちゃいけれど)“つながり”を発見する。

 さて、そういう身近な世界で語られるストーリー、これはまさしく、身近な世界の生々しいありようではないだろうか。

 最初は「引きこもりの否定」「ヴァーチャルにはない、実在世界だけの素晴らしさ」を語るのかと思ったが、すぐにそんな安っぽい考えを改めさせられる。仮想空間でも実社会でも存在しうる人と人との“つながり”、そのどちらをも肯定してみせるのだ。
 確かに現代において、たぶんこれから先も、どちらかを否定して世界を成立させていくことは不可能だろう。

 20年ほど前、ネットで知り合った人とオフラインで会って「顔がわかったから、これからは君に何でもいえる」といわれたことを強烈に記憶している。顔が見えるからこそ、もう一歩踏み込める関係。その頃にはまだ、そういう価値観が生きていた。
 いまは逆に「顔がわからないからこそ何でもいえる」という概念が蔓延っていて、すなわち匿名性という利点ばかりが突出し、それがそのままネット社会の欠点ともなっている。だが本来は、離れた場所にいても生きた人間として同じ時空を共有できることが、ネットの(すべてではないにしても重要な)本質だろう。
 そう“つながり”を意識することで僕らは、単一で存在する強大で凶暴な脅威に勝てる力を持ちうるはず。他者を傷つけるためではなく、大切な人や自分の夢やプライドを守るための戦争に勝てるはずだ。

 いっぽう現実世界での“つながり”は、より大きく僕らの生きかたに影響を与え、より切実に僕らの背中にのしかかる。
 山下達郎によるテーマソング『僕らの夏の夢』は歌う。
「心と心を重ねて 光の滴で満たして
 手と手を固く結んだら 小さな奇跡が生まれる」
 同じ価値観を分かち合いながら、物理的にも結びつくことで生まれる“つながり”は、確かに、人の世に奇跡を起こす。
 栄お婆ちゃんはいう。「いちばん良くないのは、お腹を空かせることと、独りでいること」と。つまり、みんなで食え。実に穏やかに精神的・物理的・距離的な“つながり”の重要性を説くのだ。

 ただし、ネット内にしろ実社会にしろ、“つながり”は責任をともなうものであり、“覚悟”を必要とするものでもある。
 ここで思い出すのは「自分を背景ぐるみ全肯定してくれる人」という、北村薫の著作に登場する言葉だ。
 クライマックスで健二が叫ぶ「よろしくお願いしまぁすっ!」は、お婆ちゃんの遺言へのアンサー、無事に生き永らえて、この大騒動が収まった暁には、(ある意味では煩わしい)新しい親戚というものを“つながり”として背負い込んで、夏希先輩にとっての「背景ぐるみ全肯定してくれる人」になろうとする、健二の若い“覚悟”を示すセリフだろう。

 依然としてOZ内で何でもかんでも解決してしまおうとし、仮想空間でなら世界を救う存在になれるかもと思いつき、口やかましくプレッシャーを与え、感謝や思いやりを素直に行動へと移せない……。そんな愚かで浅はかな人という生きもの。でもそこに誰かとの“つながり”を感じるとき、人のおこないは、どこか微笑ましいものとなる。
 本作は、そんな“つながり”を守るために、人が仮想空間の中でも実社会でも持ちうる(そして持つべき)“覚悟”を応援する作品だと思える。そして旧来の大家族と新進のテクノロジーとは、たがいに補完しながら、“つながり”を維持し、“覚悟”を育む場として用意されているのだ。

 ほか、作りの点では、圧倒的なリアリティの中に健二の赤面とか風呂上がりの夏希先輩を見てうろたえる姿とか、アニメらしいデフォルメを盛り込んで、それでも作品のトータルイメージを崩してしまわないシナリオ/演出のバランス感覚にも感心する。
 説明は説明と割り切って(いくぶん唐突に感じたり語り過ぎたりしている点もあったが)、ストーリーをグイグイ進めていくパワーもあるといえるだろう。含蓄に満ちた言葉/セリフも多数聞くことができる。
 そして、花札「こいこい」という、現代人(ことに本作を鑑賞する層)に馴染みは薄いが、陣内家にとっては欠かせないものをキーとして登場させたことにも拍手。「観ている人に『こいこい』のルールがわからなくても、勝ち負けはわかるように描けば、それでいい」という、細田監督の腕力としての才能を感じずにはいられない。

 キャッチコピーは「『つながり』こそが、ボクらの武器。」。そのアオリに偽りのない作品。そして「夏といえば花火とスイカと女の子でしょ」に戻れば、そういう無邪気で微笑ましい生きかたを貫くために必要なものこそ、無邪気さが許される世界を実現する“つながり”と“覚悟”なのだと、教えてくれる作品である。

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