スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ/ヘレナ・ボナム=カーター/アラン・リックマン/ティモシー・スポール/サシャ・バロン・コーエン/ジェイミー・キャンベル・バウアー/ローラ・ミシェル・ケリー/ジェイン・ワイズナー/エド・サンダース
30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4
【復讐に燃える理髪師】
ターピン判事の謀略により、妻と娘を奪われ、無実の罪で投獄された理髪師ベンジャミン・バーカー。船乗りのアンソニーに救われた彼は、スウィーニー・トッドと名前を変えて十数年ぶりにロンドンへと戻る。ミセス・ラベットが営むパイ屋の二階、もとの自分の店でふたたび開業したトッドは、いまは判事に育てられている娘ジョアンナに会うことを想いながら判事への復讐心を燃やす。だが、そこに彼の正体を知る人物が現れて……。
(2007年 アメリカ/イギリス)
【カタチ先行、借り物の空気】
原作は『世界で一番パパが好き!』でもチラリと登場したミュージカル舞台劇。まぁ内容が内容だし、ちょっと強引で性急な展開だから、どうコネクリまわしてもリアルにはならないお話だ。
そんなわけで映画化にあたっても「そのまんまミュージカル&ダーク・ファンタジー風味で」という手法が採られたのだろう。そうすりゃあウソっぽさも味になる。
その“映画化”という仕事は、そこそこ成功していると思う。
おどろおどろしくロンドンの街並を仕上げた美術と撮影は見事。しきりに登場する「夢」という言葉が物語のキーワードとなっていて、夢想だけがカラフル、現実はモノトーンの悪夢、という世界感を鮮やかに作り出す。
視線や映し込む背景に配慮してストーリーをスムーズに進行させたり、いきなり狂気が氾濫する中盤以降のスピード感など、演出も手堅い。
イケメンのジェイミー・キャンベル・バウアー、美少女ジェイン・ワイズナー、エド・サンダース君、いずれもほとんどキャリアがないのにピタリとこの世界にハマっていて、キャスティングの適確さもある。
ただ、そうしたカタチ/外枠がまずありき、あるいは歌ありきの映画だという印象が拭えない。そこではジョニー・デップの、変幻自在の持ち味が逆に生きないんじゃないか。
もちろん、ヘレナ・ボナム=カーターらが純ミュージカル風に歌い、演じているのに対し、デップはそこにホラーもロックも適度に乗っけて上手さを感じさせる。すべての事情と心情が歌詞として吐露される中で、デップは表情でも立ち居振る舞いでも倒錯した人物を表現する。
が、僕らはデップに「映画をグイグイ引っ張っていくパワー」を求めているのに、今回はどうも「ミュージカル&ダーク・ファンタジー風味で作られた映画のピース(一片)」に甘んじているように思えるのだ。
それに、バートン自身の言葉も聴こえてこない。「復讐の楽しさの半分は計画にある」なんてドキリとさせるセリフがある。仇敵とのデュオなんか、錯乱の極みだろう。ただ、それは原作が持つ怪奇性であって、「バートンだからこそ放つことができる狂気」が、ちょっと足りないように思えるのだ。
つまりは、「別にバートン&デップの映画でなくても……」という作品。そりゃあこのふたりだからこそ、ここまでのモノに仕上がったことは確かなんだろうけれど、どうも“借り物の狂気”という印象の残る映画である。
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