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2009/08/01

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

監督:トーマス・ヤーン
出演:ティル・シュヴァイガー/ヤン・ヨーゼフ・リーファース/ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ/モーリッツ・ブライブトロイ/フーブ・シュターペル/レオナルド・ランジンク/ラルフ・ヘアフォート/コーネリア・フロベス/ルトガー・ハウアー

30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3

【死を目前にした男ふたりの逃避行】
 病院で同室になった、ふたりの男。脳腫瘍でいつ死んでもおかしくないと宣告されたのは、自堕落でルール無視のマーチン。父親と同じ骨肉種だと告げられたのは、弱気で真面目なルディ。「海を見たことがない」というルディに対し「天国ではみんな海の思い出を語り合うんだぞ」とこたえたマーチンは、駐車場に停めてあった車を盗んで病院を抜け出す。が、車の持ち主であるマフィアと警察から追いかけられることになり……。
(1997年 ドイツ/ベルギー)

【ただ、そうなった】
 マーチンとルディ、ふたりの対照性をわかりやすく示す序盤の、おトボケ具合と、有無をいわさずストーリーに引き込んでいく腕力が上質。以後も、追われる者と追う者が交差し、逃れられぬ運命があり、スタート地点へと戻って、なんとも皮肉な(笑いと涙とを同時に誘う)セリフを経て、すべてを悟り切ったようなラストへと、トントンと逃避行は進む。
 自由自在にカットがつなげられ、細かな笑いやスリルも散りばめられ、余分な説明をせず、すべてを見せず、それでも心情や展開をしっかり把握させる作りが徹底されている。
 コンパクトによくまとめられたシナリオと、それを軽やかに実体化させた演出の手際が見事だ。

 デジタル・ニューマスターとは思えぬ粗いフィルムの質感だが、それがまた物語の退廃性、主人公ふたりの“刹那さ”を後押ししている。そこへ乗っけられるテーマ曲『KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR』をはじめとするロックとバラードの数々も、ビシリと画面に馴染む。
 マーチン役ティル・シュヴァイガー、ルディ役ヤン・ヨーゼフ・リーファースが醸し出す、破滅的な高揚感と、それでもまだ人間としての尊厳を失っていない(捨て切れない)様子も上々。
 バケット・リストものでは『最高の人生の見つけ方』が正攻法な作りで泣かせてくれたが、変化球的な本作の味わいも、またよし。
 噂通り、なかなかにカッコいい映画だ。

 面白いのは、マーチンとルディが「何者でもない」ことだ。マーチンの母親は登場するものの、主人公ふたりの過去はほとんどといっていいほど説明も描写もされない。
 が、それでもマーチンが極めつきのロマンチストであることはわかるし、ルディが恵まれた人生を送ってこなかったこともわかる。そもそもふたりにとっては、相手が何者であろうが関係なし。ただそこにいて、たがいの言動から微かにうかがえる価値観だけでもう十分、という間柄になっていく。

 思えば本作には“誰かと誰かの関係”が、いくつか潜んでいる。冒頭部でヘンクとアブドゥルが交わす(タランティーノを思わせるノリの)噛み合わないジョークでこのふたりのズレを示すほか、主従だったり上司と部下だったり利害関係だったり。
 その中でマーチンとルディは、ニヤリと笑うだけで次の行動へと移れる関係をたちまちのうちに築き上げていく。助けてくれた人に金を払う際、マーチンはいちいちルディに許可を取る。他の人々よりも、ひときわ強い関係であることを態度で示す。

 じゃあどうやってふたりがそこまでの関係に至ったかというと、これはもう、ただ「そうなった」のだ。同じ場所に立って、同じ世界を見ているうちに、そうなってしまったのだ。
 もちろん、不治の病という要素は大きかっただろう。が、どれほどいっしょに修羅場を潜り抜けようと、そうならないふたりもいる。
 けれどマーチンとルディは「そうなった」。『バウンド』の項で「恋愛とか親子以上に“共犯者”ってのは強い結びつき」と書いたが、その領域へズドンと突っ込んだ。ふたりにかかれば、ヘルシンキ・シンドローム(あるいはストックホルム・シンドローム)だのなんだのという心理学者の御託なんて「ふぅん」に過ぎない。マーチンとルディにとっては、「そうなった」結果がすべてなのだ。

 何者でもなかった男たちの、何も起こらなかった人生は、やがて、共犯者として、最期をともに過ごした相手として僕らの前に存在するようになり、作品世界の中の人々には「病院から抜け出した凶悪犯と人質」として記憶されることになる。
 それがふたりの「そうなった」結果としての関係であり、人生である。
 そしてたぶん、理由もなく「そうなった」ことの積み重ねこそが、生きるってことなのかも知れない。

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