ブラッドシンプル ザ・スリラー
監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョン・ゲッツ/フランシス・マクドーマンド/ダン・ヘダヤ/M・エメット・ウォルシュ/サム=アート・ウィリアムズ
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸4/技3
【ズレていく犯罪】
バー経営者のマーティは、妻アビーがバーテンのレイと浮気していることを知る。マーティは腹に据えかね、浮気を調査した私立探偵にふたりを始末するよう依頼。ところが探偵はマーティを裏切り、レイは大いなる勘違いを犯し、アビーは追い詰められ……。それぞれの思惑が微妙にズレながら事件は意外な方向へと転がっていく。1984年に発表されたコーエン兄弟のデビュー作を、後に自ら再編集したディレクターズ・カット・バージョン。
(1984年/1999年 アメリカ)
【居心地の悪さが罪を生む】
どうしても80年代っぽさ=野暮ったさの残る作りだが、その向こうにある狂気やセンスは普遍的なパワーを湛えている。
ズルズルっ、ベタベタっ、とした会話場面から一転、ほとんどセリフなしに展開する行動シーンでグっと惹きつける、その緩急の振り幅が秀逸。
適時挿入されるファンのノイズが“居心地の悪さ”を助長し、得体の知れぬ恐怖を増していく。
また、光も大きなキーアイテムとして機能する。
決して「用意された」不自然なものと感じさせず、それでも1つ1つの灯りに意味や効果を持たせるように、周到な計算を経て配置されているライトや照明が、登場人物の心とその場に漂う不穏な空気をボコボコと画面上へ浮かび上がらせる。
そのモヤっとした雰囲気の中で描かれるのは、人の愚かさの象徴としての犯罪。なるほど、ほとんどの悪事(とくに、あっけなく発覚する犯罪)ってのは、こうやって浅はかさな懸命さが生み出すものなのだな、ということがよくわかる展開・演出だ。
ま、何かが強く心に残って考えさせるという内容ではなく、ひたすら愚か者たち(および人が愚かだからこそ起こってしまう出来事の顛末)を描くことに終始した、ただそれだけの映画。
ではあるんだけれども、ダラリとした空気感、人間を「たいして意味のない『愚』的存在」として捉える視線、そうしたコーエン兄弟の独特の味わいをしっかりと楽しめて、「作りたいものを、とりあえずは作りきった」ということも感じることのできる作品ではあるだろう。
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