« リボルバー | トップページ | ウォーター・ホース »

2009/09/21

プロヴァンスの贈りもの

監督:リドリー・スコット
出演:ラッセル・クロウ/マリオン・コティヤール/アビー・コーニッシュ/ディディエ・ブルドン/イザベル・カンデリエ/トム・ホランダー/アーチー・パンジャビ/レイフ・スポール/ケネス・クラナム/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/ジャック・アーリン/フレディ・ハイモア/アルバート・フィニー

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3

【彼がその休暇で手にしたもの】
 手段を選ばないやり口で巨額を儲け続けるロンドンのトレーダー、マックス“ミリオン”スキナー。その手法に捜査のメスが入ることとなり、会社からは休職を勧告される。折しも唯一の肉親であるヘンリーおじさんが亡くなったため、マックスは仏プロヴァンスへ。オンボロの屋敷やブドウ畑を売り払おうとするマックスだったが、売却に反対する畑の管理人デュフロ、意外な来訪者クリスティ、勝気な女性ファニーらと出会って、彼は……。
(2006年 アメリカ)

【小さな幸せ】
 この企画・ストーリーなら、もっともっとあからさまに「田舎暮らしってこんなに素敵なんですよぉ~」と謳い上げたくなるところ。が、そんな押しつけがましい空気はなく、サラリ。それが、いい

 たとえば飛込み板に立つマックスの表情だけで、かつてそこで遊んだ記憶を彼が持っていることがわかる。庭のテーブルをうつすだけで、観る者の目には、そこに座っていたヘンリーおじさんの姿が浮かぶ。
 大仰に美しい景色をスクリーンに広げたりはしない。むしろ、ここは汚らしくて不便で暮らしにくくて、隠し事すらできない小さな世界であることをユーモラスに描いていく。

 自らをクソったれのプレイボーイだと認めるマックスが、その小さな世界の中で、変わる前兆を見せぬまま過ごし(けれどパパ・デュフロがプールに落ちないよう気を配るさりげない行動などでマックスが持つ優しさも示しながら)、1つ1つの記憶や出会いの積み重ねの果てに、なすべき行動へと、彼にしかできないことへと、突然シフトを切り替えるのが、リアルだ。

 大事なのは負け続けないこと。そんな味わい深い言葉の数々とともに印象に残るのは、ラスト、言い争うクリスティとデュフロや、マックスとファニーを見守るリュディヴィーヌの姿を、やはり小さく、風景として提示するカットだ。
 この小さな土地にしかない小さな幸せ。そんなものたちに囲まれて暮らすことの喜びを、そっとこの映画は教えてくれる。決してGREATではないけれど、小さなGOODで満ちた生活が、どれほどで素敵であるかを。ワインの出来を示す原題『A Good Year』には、きっと、そんな意味もこめられているはずだ。

 いつもの闘士とは異なる、あたふた男をのびのび演じるラッセル・クロウが可愛い。アビー・コーニッシュは、ニコール・キッドマン、ナオミ・ワッツ、ナタリー・ワードら“オージー風味の別嬪さん”の系譜にその名を加えるべく可愛らしさを発散。もちろんマリオン・コティヤールはここでも美しく、アーチー・パンジャビ(『ベッカムに恋して』のお姉ちゃんか)もエキセントリック。フレディ・ハイモア君とアルバート・フィニーのコンビも、ふんわりとこの映画を温かく包む。

 屋敷近辺やデュフロ宅の美術、女性陣の衣装の華やかさ、いつも夕景のような独特の色合いを作り出した撮影、楽しい音楽など各パーツも上質で、本作全体のテイストである“さらり、ふんわり”が、しっかりとした仕事によって生み出されていることもわかる。

 にしても、リドリー・スコットがこういう映画を撮れるとはなぁ。っていうか、断然こっちのほうがいいじゃん。
 若い人にはわからないかも知れないけれど、ある程度の年齢とツマラないキャリアを重ねると、こういう“小さな幸せ”モノに弱くなるんである。

|

« リボルバー | トップページ | ウォーター・ホース »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: プロヴァンスの贈りもの:

« リボルバー | トップページ | ウォーター・ホース »