ウォーター・ホース
監督:ジェイ・ラッセル
出演:アレックス・エテル/エミリー・ワトソン/ベン・チャップリン/デヴィッド・モリッシー/プリヤンカ・ジー/クレイグ・ホール/マーシャル・ネイピア/ジョエル・トベック/ブライアン・コックス
30点満点中17点=監3/話3/出3/芸4/技4
【水の精と少年の、真実の物語】
いまではインチキだと知られるネッシーの写真。だが、旅行客相手に老人が語ったのは、真実の物語……。第二次世界大戦当時、湖に魅せられながら湖を恐れ、水に入ろうとしなかったアンガス少年。彼が湖畔で拾った卵からは不思議な生物が孵る。その水の精=ウォーター・ホースをクルーソーと名づけて育て始めたアンガス。村には基地設営のために軍が押し寄せ、クルーソーはみるみる大きくなり、そして、あの運命の夜がやって来る。
(2007年 アメリカ/イギリス)
【意外と反戦】
小さい頃、毎日のように遊んだ友人の家は農家だった。彼の家にあったのが土蔵。滅多に入らせてはもらえなかったけれど、だからこそ、その神秘性にはずいぶんと憧れたものだ。
大切なものを、あるいは他人に見せたくない奇妙なものをしまっておく、通常空間とは異なる空気と時間の流れに満ちた世界。そんな蔵だとか物置小屋だとかは、人の心の中に何かを育むための、ひじょうに有用なスペースだと思う。
さて、そんな感傷とは別に、意外にも反戦へと本作は向かう。
作りとしては、甘さが残るといえる。アンガスが暮らす環境や父の不在を示す序盤はスリルに欠けるし、クルーソーの成長にまつわるドタバタ、ルイスとの交流、軍隊とアンガスとの関わり、村人たちの反応なども、もっと詰め込みながらテンポを上げることだってできただろう。
ジェームズ・ニュートン・ハワードによるスコティッシュ/ケルト風味の音楽や涼しげな画像の質感、クルーソーを鮮やかに創出したCGなど、いい面は多いものの、たとえば『E.T.』や『のび太の恐竜』に比べれば、全体として密度の薄い仕上がりに感じる。
ただ、そこで伝えられるメッセージにはいろいろと考えさせられるものがある。作品の軸をなすテーマは“父性の不確かさ”だ。
エリオットやのび太は比較的ストレートに父性というものを心の中で消化したが、本作はアンガスに対して「そんなもの、あってないようなもの」と告げる。
帰ってこない父親。父親にはなり得ない、ふたりの成人男性。父親ぶってクルーソーを育て始めたものの、結局は何もできない幼さ。主のいうことをきかない犬。
老アンガスの雄叫びから、アンガス少年とクルーソーの冒険が彼にとって人生最高の瞬間だったことがわかるが、その場面では「クルーソーに導かれるアンガス」、すなわち父性の逆転を感じ取ることもできる。
庇護し、与える。そんな絶対的な父性などないと諭すような物語だ。
そして、その“父性の不確かさ”をもたらすものこそ戦争、ということなのだろう。あるいは、もうひとりの残された者=母アンにとっても、戦争は愛しき人を奪う狂気に他ならない。
この世には常に一匹しか存在しない、というウォーター・ホースの設定が興味深い。それは、もっとも大切なものの暗示か。
人にとってもっとも大切なものを守ろうと、人が懸命になること、それが争いの回避、相互理解、自由へとつながる。そんなメッセージを発信する映画となっているようである。
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