インサイダー
監督:マイケル・マン
出演:アル・パチーノ/ラッセル・クロウ/クリストファー・プラマー/ダイアン・ヴェノーラ/フィリップ・ベイカー・ホール/リンゼイ・クローズ/デビ・メイザー/スティーヴン・トボロウスキー/コルム・フィオーレ/ブルース・マッギル/ジーナ・ガーション/マイケル・ガンボン/ネスター・セラーノ/ハリー・ケイト・アイゼンバーグ/レニー・オルステッド
30点満点中19点=監5/話3/出4/芸3/技4
【TVプロデューサーと告発者、タバコ業界との苦闘】
CBSの看板番組『60ミニッツ』のプロデューサー、ローウェル・バーグマン。徹底して真実を報道する姿勢を貫く彼はタバコの安全性に関する資料を入手、その解説をジェフリー・ワイガンドに依頼する。大手メーカー・B&W社から解雇されたばかりのワイガンドは、タバコメーカー社長らによる「ニコチンに中毒性はない」との証言は虚偽だと告発することを決意。だがワイガンドは脅迫を受け、バーグマンにも圧力がかかり……。
(1999年 アメリカ)
【格の高さとメッセージ性】
日本料理店でのシーン、日本での勤務経験があり、日本語を話せるという設定のワイガンドは、店の人を「おねえさん」と(日本語で)呼ぶ。このリアリティ、「その場にふさわしい言葉を喋らせる」=ディテールを疎かにせず、ちゃんとした“らしさ”をしっかりと配置してある点が、本作の立っている位置を物語る。
つまり、格のある映画なのだ。
露出、アングル、レンズのサイズ、うつすもの・うつさないものの判断に気をつかい、スロー、スピーディな編集も駆使して、空気感たっぷりの画面を積み重ねていく。音楽・音を適確にオン/オフすることによってもたらされる緊迫感も上々だ。
とにかく、たいしたアクションなしに、ジリジリと緊張を高めていく語り口が見事。「信号で車が止まる」というだけでスリルを感じさせるのだから素晴らしい。
ポイントごとに、バーグマンの視線を追い、ワイガンドの表情や指先をとらえるなど、登場人物たちの心理描写を大切にしていることもわかる。
モデルとなったふたりと主演ふたりの4ショット写真をwebで観ることが可能で、まったく似ていないことに驚かされるのだけれど、猛り狂っても穏やかに話しても“熱い芯”を感じさせるアル・パチーノ、ひたすら苦悩に沈むラッセル・クロウ、どちらも良質。
全体的に、パーツすべてが練りこまれており、スキのない作りであることが印象的な作品である。
で、本作で描かれているジャーナリズムについて。『ミッドナイト イーグル』の感想で「伝えたいことがある人と、伝えてくれることを待っている人がいるなら、その仲立ちとしてジャーナリズムは十分に存在意義がある」と書いたが、その判断基準からいえば、ワイガンドを誘導した気配の強いバーグマンのやり口も、「なぜ伝えなければならないのか」という部分を曖昧にした本作そのものも、ジャーナリズム映画としては“スレスレ”といったところだろうか。
ただ、いかにも欺瞞に満ちた局上層部やアンカーマンの言動、カネが支配する社会、すぐにエキセントリックなネタに飛びつくマスコミの体質(それを喜ぶのはわれわれ視聴者に他ならないのだが)など、世の中がどのようにしてできているのかは、よくわかる。
タバコ会社とTV局(私自身もTVを信用しなくなって久しい)を糾弾する内容であることは確かだけれど、その両者だけでなく、「世の成り立ち」すべてに対して疑問を投げかける作品だといえるだろう。
同じテーマで、同じ方向へ、異なるテイストで切り込んでいった『サンキュー・スモーキング』と対比して観るのも面白そうだ。
面白いといえば、コーヒー=カフェインという、世の中に蔓延するもうひとつの中毒性嗜好品を飲む場面がたびたび登場する点も興味深い。あるいはジャーナリズムもまた中毒性の高い行為であるようにも感じられる。中毒を描いた映画、といえるかも知れない。
思った以上に世界には、「存在の是非を考えることなく、つい手を出してしまうモノ」があふれている。
救いがあるとすれば、まだ世の中の何たるかを考えることもない幼い娘たちに「あの放送を見せたかった」と語るワイガンドの、未来に対する儚げな希望、何が正しいか自ら考える力が大切だと伝えたい親心。
それはエゴイズムなのかも知れないけれど、人を前へ進ませる力となりうるイズムなのだと思う。
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