ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習
監督:ラリー・チャールズ
出演:サシャ・バロン・コーエン/ケン・ダヴィティアン/ルネル/パメラ・アンダーソン
30点満点中17点=監4/話4/出4/芸3/技3
【いざアメリカ! いざカリフォルニア!】
「アメリカと合衆国(!?)」の文化を学習するため、はるばるカザフスタンからやって来たTVリポーターのボラット・サカディエフ。さまざまな人にインタビューを試み、教えを請う中で、彼の地と此の地があまりに大きく異なることが明らかとなっていく。ホテルのTVで観たパメラ・アンダーソンに恋をしてしまったボラットは、プロデューサーのアザマートを説き伏せて予定変更、彼女のいる西海岸カリフォルニアを目指すのだが……。
(2006年 アメリカ)
【笑えば笑うほど、僕らはバカになる】
この1年の間に「そうか、世界はこういう風に出来ているんだな」と感じさせる作品をけっこう観ていることに気づいた。今回からしばらくは、そういう映画をシリーズで。
ほんの数年前だったか、海外で「日本はどこ?」と地図を見せてたずねる番組があって、意外なほど多くの外国人が朝鮮半島を指し示すことに驚いた記憶がある。
けれど、ま、そんなもんなのだ。そもそも連中、アジアなんかみぃんな一緒だと思ってるぞ。プラハの土産物店で「カムサ ハムニダ」っていわれたもんな。
たぶんカザフスタンの人々も、アメリカのこと以上に日本のことをわかっていないはず。こっちだって同様。カザフスタンといえば、サッカーでアジアから脱退して欧州に加盟したことと、あとはバイコヌール宇宙基地が宇宙開発ファンには有名。それくらい。政治システムも民族構成も言語も知らないし、場所すら不鮮明だ。
そんな“たがいに知らぬ関係”というか、“どうせ知らないよね、知らなくっても問題ないし”という無知と無関心とを大前提として、嫌悪感すらもよおすほどの奇異&オチョクリを詰め込んだのが、本作。
未見のかたのためにイメージを述べると「中国人俳優が眼鏡と出っ歯と着物姿の日本人を演じ、アメリカへ渡ってハラキリ」よりも酷い内容。もちろんそれをシャレとしてやっているんだけれど、ヒヤヒヤするくらい際どいジョークになっている。
ただし、一応はドキュメンタリーの形式を取りつつも、手間ひまをかけ、テイクを重ねたこともわかり、ニセ・ドキュメンタリー=シャレとわかるように作ってある点は誠実か(いや、これ信じちゃう人がいたら、それこそ笑えない)。
でも、ふと「単なるオチョクリだけじゃないよな」ということに気づいたりもする。アメリカにいろいろな車種がある理由とか、宗教の意義とか、差別と認識されない差別とか、意外な真理がチラホラ。「ふだん深くは考えないけれど、実は奇妙」というモノゴトや価値観が、僕らの周りにいっぱい転がっていることがわかる。
そう、ボラットと彼が関わる人々を笑うってことは、己の無知を笑い、無関心を省みない自分を笑うことに等しい。これはある意味、ドキュメンタリーよりも鋭く真実を抉り出そうとした映画なのだ。
日本公開時のキャッチコピーは「バカには理解不能なバカです。」とのことだが、なるほど、これを観て何も考えずギャハハと笑い飛ばす人こそもっともバカ、といったところか。
そして、ラスト。「お前ら、自分で考えることができるようになったのは何歳からだ?」と、観客はおちょくられる。もちろん言外にあるのは「考えて生きていないだろ」という批判。
無知と無関心を貫き、自分を中心とする半径数メートルの世界に生き、立派な大人になってもなお自ら思考することなく押し付けに従う、そんな僕らを嘲笑うような映画なんである。
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