« いのちの食べかた | トップページ | 君のためなら千回でも »

2009/11/26

The 11th Hour

監督:ナディア・コナーズ/ライラ・コナーズ・ピーターソン
出演:レオナルド・ディカプリオ

30点満点中16点=監3/話4/出3/芸3/技3

【人類に残された時間は少ない】
 産業革命以降、人類は化石燃料に依存する生活へとシフト、大量生産と大量消費を繰り返し、猛烈なペースで資源を喰い散らかしてきた。その結果として訪れたのは、地球温暖化、水質と大気の汚染、生態系の破壊と多数の種の絶滅……といった、絶滅へと向かう世界の現状。各地で環境問題の解決を提起する運動が急速な広がりを見せる中、科学者や活動家へのインタビューを通して「いまの地球と人類」「われわれができること」を考える。
(2007年 アメリカ)

【まずは意識から】
 ホーキング博士、ゴルバチョフ元大統領(環境保護団体を設立するなどの活動をおこなっている)、ワンガリ・マータイ女史といった有名人をはじめとする科学者・活動家へのインタビューがひたすら続き、その合間に環境破壊や機械化社会の実情を示す映像がインサートされる、という作り。
 よって映画的な興奮は少ないのだが、構成と、語られる言葉ひとつひとつは実に興味深い。

 前半は、「この星に人類は不要ではないか?」という疑念を抱いてしまうような実例や警句が相次ぐ。
「本来、人類も自然の一部であるはずだ」
「人類は自然を『資源』としてきた」
「トラック1台分の製品を生み出すのに32台分の廃棄物が排出される」
「人類だけは別という考えかたは思考障害」
「このままでは炭鉱のカナリアである」
「人類の誇る『英知』が、地球を破壊してきた」

 人は、自分の生命に対しても地球に対しても社会に対しても、同じような感覚で接しているのだな、と思う。
 つまり「ま、これくらいなら大丈夫。他の人だってやっているし」「だって心地いいし便利なんだもん。でも体に悪いってことはわかっているから、そのうちやめるけれどね」。
 で、問題が“ほとんど取り返しのつかない深刻な状況”になって初めて、血相を変え、慌てて対応することになる。
 ただし対応といっても、対症療法や問題のすり替え、相変わらず「こっちのほうがもっと便利で気持ちいい」という“英知の濫用”だ。その対応がさらなる問題を生み、地球と人類の関係は、何かやろうとすればするほど悪くなっていくという悪循環に陥る。

 ある科学者はいう。「環境破壊や温暖化は問題ではなく症状なのだ」。

 では、真に立ち向かうべき問題とは何か? これを語るのが後半だ。
「欲望の対象を変えることが必要」
「守るべきなのは地球ではなく、思いやりのある社会」
 すなわち、他人よりもちょっといいもの、でもよく考えれば不要なものを追い求めるのではなく、自然と人類の共生や「すべての生命が生きやすい世界の構築」を目指すこと、物質文明からの脱却。

 そして、国の環境保護政策を問うこと、環境保護の立場から納得できる商品を買うこと、「人類は気づいた範囲では最善を尽くしている。ならば“気づき”のレベルを上げることが大切」といった、社会システム面での姿勢が語られる。
 たとえば日本が対峙するインド洋給油問題も、突き詰めれば「大量消費を是とする僕らの生活を守るため」というところへ行き着く。
 すべての物事はどこかで深く結びついていて、あるひとつの価値観を変えることで、ずっと離れたところにある別の問題が解決される。そんな知見と意識の持ちかたが重要、というわけである。

 と同時に重要なものとして位置づけられるのが、科学。
 化石燃料以外のエネルギー源、CO2排出量の少ない輸送手段や生産、水や酸素/二酸化炭素の循環機能を持つ建物や都市……。地球に危機をもたらした科学=人類の英知で、こんどは地球と人類を救おうじゃないか。

 依然としてそんなものに頼ろうとする、人の愚かさ。ひょっとすると環境保護というのは「持続可能な社会を作るための手段として、もはや残されているのは科学という希望しかない」と思い知らされてしまう、そんなパンドラの箱なのかも知れない。
 が、その英知こそ、人類が人類である由縁。僕らが持っている最大の武器で問題に立ち向かってこそ、僕らの存在意義やアイデンティティも保たれるといえるだろう。

 本作は「歴史を振り返れば、ひとつのムーブメントが世界を変えるまでに30~40年かかっている。だが時間は残り少ない」と、僕らを焦らせる。また「生命を支えてきたのは日和見主義と欲である」ともいう。
 じゃあ、もっと生き延びたいという生存本能を人類の欲として喚起し、それが美徳であると日和見主義的な心を導けば、まだ間に合うはず。要するに消費者をおだてて脅してなだめすかして持ち上げればいいのだ。
 僕ら人類は「未来という概念」を持っている。未来に待ち受ける危機を察知する能力もあるわけで、時計を巻き戻すことはできないとしても、人類の歴史を11th Hour=終焉寸前にとどめることは、できるはず。

 それともいっそのこと、喰い散らかすだけ喰い散らかして、宇宙へ逃げ、別の喰い散らかせる場所を探そうか。

|

« いのちの食べかた | トップページ | 君のためなら千回でも »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: The 11th Hour:

« いのちの食べかた | トップページ | 君のためなら千回でも »