リリア 4-ever
監督:ルーカス・ムーディソン
出演:オクサナ・アキンシナ/アルチオン・ボグチャルスキー/リュドフ・アガポワ/リリア・シンカリョーヴァ/エリーナ・ベネンソン/パヴェル・ポノマリョフ/トマシュ・ニューマン
30点満点中18点=監4/話4/出4/芸3/技3
【とある町、抜け出したいと願う少女】
旧ロシアの、とある町。16歳の少女リリアは、ひとりで暮らしていくことになる。「恋人を追ってアメリカへ渡る」という母に同行できることを楽しみにしていたのだが、置き去りにされてしまったのだ。残された生活費も尽きたいま、彼女に“売れる”ものといえば、ただひとつしかなかった。薄汚れた部屋、親友の裏切り、唯一の幼い友、差し伸べられる救いの手……。だが彼女に待ち受けていたのは、望まぬ未来だった。
(2002年 スウェーデン/デンマーク)
★ネタバレを含みます★
【逃れることのできない世界】
オクサナちゃん目当てに観たのだが、ここまで“凹まされる”映画だったとは……。
汚れた世界で、はぐれ、行き場を失くして彷徨う鳥。いきなりオープニングでリリアという存在の“ありよう”を印象づける。それは実はエンディングでもあって、リリアが一貫して彷徨う鳥であり続けたことを描き出す。
生活費でスナック菓子やタバコを買う彼女。だが“暮らしていく能力”を持ち合わせていないのも当然だろう。巣のように並ぶ小汚い家、ごみの山、娯楽としてのシンナー吸引、ホンモノのナイキが珍しい土地、当たり前のように墜ちていく生(あるいは性)に対する価値観の乏しさ。
なるほど「生まれた日と場所が違えば、どうなっていただろう」と、空しい想像に耽りたくもなる世界が、ここにはある。
一歩そこから飛び出たとしても、スウェーデン人に抱かれるために売られたロシア人の少女が、英語で会話するという光景があるだけ。地球はイビツなグローバリズムに覆われている。
そんなクソったれの世界でひたすら生(あるいは性)を搾り取られていく少女の姿を、カメラは直近で追い、ときに突き放して、「あなたが関心を払おうが第三者的な視線で見ようが、こういう世界が、確かにある」と観る者に告げる。
ドキュメンタリー・タッチの絵づくりと、細かく刻まれてお話をすっ飛ばす編集の巧みさ、予想を小さく裏切る展開とが、見事にリリアやボロージャらの不安と孤独を浮かび上がらせていく。
「最悪だけれど、それが人生」
小学生が吐く、これまで観た映画の中でも屈指の哀しいセリフが胸に痛く迫る。が、きっとそれは、世界の多くの場所での真理なのだろう。
リリアが大切に掲げる天使の絵。本来、翼とは、彷徨うためではなく天国へ向かうためにあるもの。そんな祈りがうかがえる。
ああけれど、彼女たちにとっての天国は、ただ「ちょっと後悔していたことを改める場所」や「やりたかったことを親に叱られず思いっ切りやれる場所」にすぎず、その景色は、ビルの屋上という想像の範囲内でしかない。
その事実がまた哀しく、凹まされるのである。
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